それでも、地域仮想通貨は視界不良が続く。「発行体の論理」先行の印象がぬぐえないからだ。地域外への通貨流出を防ぎたいという想いは理解できるが、利用者が当該地域通貨を利用しなければならない道理はない。観光目的の訪日外国人にとってみれば、なおさらだ。利用促進のため、地域通貨でしか購入できない商品開発に力を入れる向きもあるが、地域を振興したいのか、地域通貨を振興したいのか。本末転倒と言わざるを得ない。
令和に入り、決済手段は戦国時代の様相を呈している。強制通用力を持つ「法定通貨」に加え、キャッシュレス決済を促す「クレジットカード」「電子マネー」「QRコード」が乱立。POS連携強化などを通じ、「個」の大量購買データ獲得競争を繰り広げ、企業の販促手段に端を発する「企業通貨(ポイントやマイレージ)」との間でも戦線を拡大しつつある。ブロックチェーン陣営からは、ビットコインに代表される暗号通貨、投機性を極力抑えて法的通貨に挑戦状を突き付けた「Libra(リブラ)」の登場。
翻って、地域仮想通貨は汎用性、投資効果、販促効果の全てで劣後するうえ、その多くは自治体予算頼み。事業経済性を無視した取り組みに持続性はない。今こそ、改めて問い直そう。なぜ地域なのか。なぜ仮想なのか。なぜ通貨なのか。思い切った発想転換が必要だ。
世の中は、貨幣価値社会とパラレルに、無数のコミュニティーが存在する。金銭で測れない価値であふれている。SNSの「Like!(いいね)」もその一つ。決済手段には「売り手」と「買い手」しか介在しないが、価値観を共有するコミュニティーには、「賛同者」「評価者」「共有者」など多様な当事者が存在する。社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求に駆り立てられた百人百様の個性が共存する。
仮想通貨(トークン)は、そんな非貨幣価値社会における尺度に最適だ。熱量の高いコミュニティーでは独自トークンが高密度に飛び交い、強い個性にはさまざまなコミュニティートークンが通過する。貨幣価値社会で認知されづらかった価値が可視化され、埋もれた個性の発掘が容易になる。スマートコントラクト(ブロックチェーン上で契約を自動実行する仕組み)を実装するイーサリアムのカスタムトークン(ERC20トークン)などを活用すれば、保有者ごとに使用目的を限定するなど、設計の自由度も高い。
ブロックチェーンは、貨幣価値社会と非貨幣価値社会の並立する未来にこそ、より一層輝くに違いない。(図A2参照)
田村誠一(Seiichi Tamura)
外資系コンサルティング会社において、各種戦略立案、及び、業界の枠を超えた新事業領域の創出と立上げを数多く手掛けた後、企業再生支援機構に転じ、自らの投融資先企業3社のハンズオン再生に取り組む。更に、JVCケンウッドの代表取締役副社長として、中期ビジョンの立案と遂行を主導、事業買収・売却を統括、日本電産の専務執行役員として、海外被買収事業のPMIと成長加速に取り組んだ後、ローランド・ベルガーに参画。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授