変曲点を迎える半導体市場【第一章】ローカライゼーションとサプライチェーン再構築の動き(2/2 ページ)

» 2023年08月01日 07時00分 公開
[Shi Juan, 兼子佑樹ITmedia]
Roland Berger
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 他方、中国は従来から半導体の自国製造を志向しており、2015年に公表した「中国製造2025」では、「2025年までに半導体自給率を70%まで引き上げる」と宣言をしていた。そのうえ、米国から前述の措置を取られたことで、半導体最先端技術をさらに重視する傾向にある。約1400億米ドルの投資を計画しているとの報道もなされているように、国外からの供給に頼っている最先端半導体の自国生産を進めているようで、実際、2021年にはSMICが7nm下の最先端半導体製造工程を確立したとされている。

米中の背中を追う日韓政策

 翻って、半導体を国の主要産業の1つに据える日韓両政府は米中の動きを受け、ローカライゼーションの動きを見せる。

 Samsung・SK hynix等の有力企業を有する韓国は、「半導体超強大国達成戦略」を策定し、国内企業による半導体関連投資を推進すべく、インフラ関連の規制緩和や税制優遇支援、人材育成や新技術の開発支援を行う。上記のような積極的な施策が奏功し、自国内調達の動きは非常に高まっている。

 日本政府は米国等有志国と足並みを揃える形でサプライチェーン再構築を目指しつつ、競争力強化を図る方針だ。日本は自国内における半導体の売り先が米中と比較すると相対的に少なく、自国内でのバリューチェーン完結は難しい。そのため、欧米諸国や韓国・台湾と連携することを通じ次世代半導体の開発やユースケース創出を狙っている。また、段階を踏んで着実に競争力を強化することで2030年には半導体産業の売上高15兆円(’20年比で約3倍 )への引き上げを狙っており、その初期段階として、LSTC(技術研究組合最先端半導体技術センター)とRapidus(ラピダス)株式会社が新たに設立された。Rapidusは、2022年8月に2nm以下の先端ロジック半導体の量産を目的にトヨタ・ソニー・NTT等の出資のもと設立されたが、技術面では米IBMと提携しており、後工程への展開も視野に、国産ファウンドリとしての事業化を目指すとしている。

決して安泰ではない半導体産業強化への道

 さて、本稿冒頭に言及したとおり、COVID-19で混乱した市場は徐々にではあるものの平常への回帰、再成長の兆しを見せ始めている。また、ロシアのウクライナ侵攻により生じた原料調達問題に関しても、発生直後はサプライチェーンの混乱を招いたものの、従前より各国が進めていた備蓄や国産化(検討開始を含む)等により本事象への対応を進めているようである。

 但し、官民双方が半導体産業強化に向けて動く日本にとって、産業強化への道は決して安泰ではない。政府の支援や投資金額を見ると米中には劣っており、最先端テクノロジーノードの半導体製造は各国がまさに鎬を削る最中であり、競争の激化は避けられない。かような状況下では民間企業各社による努力にだけでなく、政策での支援も欠かせない。(各国政策に関しては第三章にて言及する)

 また、米国を筆頭に各国がエコシステムを自国内に閉じようとする動向には常に目を光らせる必要がある。日本の各社も他国企業と技術供与等で連携することが今後多く発生すると思われるが、当該連携はユースケース創出や先端技術開発において必須であると同時に、一定の訴訟リスクを内包するものであることは理解しておくことが重要だろう。各国が相互に依存・協力する現状に鑑みると、急速な鎖国化や国家を横断する形での提携の解消が今すぐ生じる可能性は高くはないと思われるが、一国あるいは有力企業1社への依存はリスクであり、冗長化を要する。

 重ねて、日本の半導体産業の弱みの1つに最終顧客の細かなニーズを拾えないというものがあった。半導体製造工程のうち付加価値が低い後工程は、人件費の安い台湾や中国で実施するのが一般的であり、結果的に、最終顧客と日本企業の間に距離が存在したことに起因してきた。但し、前工程の重要性が非常に高い現時点においては、前工程の開発から製造に係る部分を自国内で確立することが喫緊の要取組み事項となるだろう。

 今後、最新技術開発や製品付加価値向上に向け、国内外のアプリケーション企業のニーズを踏まえた開発・製造方針の策定が求められるため、グローバルのニーズトレンドにアンテナを張りつつ、消費市場の動向を含め、米中の動きを先読みした立ち回りが必須となるだろう。また、自動車OEMやEMS事業者による生産量確保や高付加価値半導体そのものの内製化を企図する動きが見られる中で、既存プレイヤーではない顔ぶれによる半導体業界変革の可能性もあると見るべきではないか。

著者プロフィール

Shi Juan

ローランド・ベルガー プリンシパル

南洋理工大学(シンガポール)応用数学博士課程修了。博士(応用数学)。

日本半導体メーカー、グローバル戦略コンサルティングファーム等を経てローランド・ベルガーに参画。

半導体、自動車関連、消費財などの製造業を中心に、海外市場戦略、新規事業開発、事業成長戦略などのプロジェクト経験を豊富に有する。特に、製造業×クロスボーダーに係る支援プロジェクトに強みを持つ。


著者プロフィール

兼子佑樹

ローランド・ベルガー シニアコンサルタント/ 東京オフィス

京都大学法学部卒業。国内シンクタンクを経て現職。電子・電機、TMT領域を中心に事業戦略立案等、さまざまなプロジェクト多数従事


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