海外勢に後れを取った日本のテクノロジー産業 起死回生のシナリオとはビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

» 2011年12月01日 08時00分 公開
[萩平和巳,ITmedia]
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 (4)スピードが遅い

 前述の生態系の議論では、マーケット全体をいかに早くプラットフォーマーとして捉えられるか否かが勝敗の行方を握る重要なカギである。生態系を作り上げた者と、あとからそこに参画する者では、得られる旨みに雲泥の差がある。また、単一のサービス・プロダクトを取ってみても社内の意見調整に手間取り、意思決定に数か月を要している間に海外勢は早々に製品開発と市場への投入を進め、気付いたときは後の祭り、といった状況がいくつかの製品分野で過去に起こっている。簡易型カーナビの開発に出遅れることにより、グローバルマーケットでのポジションを失っていった日本のカーナビメーカーはその好例である。

 (5)人材不足

 上記4つの課題、つまるところいずれも実現可能な人材の有無にかかっているといえる。伝統的に多くの日本企業ではOJTの名のもと、現場で人を育てることが原則とされてきた。しかしながら現場だけでは身に付かない尖がったスキルを持った、いわば異色人材の育成には、OJTとは別に体系的な育成制度の構築が必須である。こうした人材育成の営みと同時に、上記4つの活動を強化していくことでわれわれ日本企業にも、テクノロジーをレバレッジすることによる次の時代での勝機が見えてくる。

 拙書「日本製造業の戦略」では、上記5つの課題に対する具体的な打ち手の方向性を示すと同時に、前半部分では2015年という比較的近い将来における日本製造業の考えられる姿を成功/失敗の2パターンのシナリオに落し込み描いている。具体的には、パーソナル領域(コンシューマー向け)、ビジネス領域(法人ユーザー向け)、社会システム領域(医療・健康、食・農業、交通)の3つの領域において、日本企業がグローバルマーケットにおけるリーダーとなるケースと、海外勢にマーケットリーダーの地位を奪われ続けているケースそれぞれについて、想定される状況を可能な限り具体的にイメージし書き下ろしたつもりである。

 いつからか、日本は課題先進国といわれるようになった。少子高齢化による労働力減少や医療費の爆発的増加。日本型の課題解決アプローチを早急に確立し世界に展開することが求められている。いわば日本型課題解決アプローチの中に世界が抱える課題への取り組みを加速するヒントがあり、同時に日本製造業復活の糸口もそこにあると本書著者陣は考えている。

 しかしながら残された時間は少ない。われわれは正念場に来ている。この危機感をしっかりと共有し、そして日本製造業の完全なる復活を夢見るビジネスマンや、次の時代を担う学生の皆さまに、ぜひ本書を手に取っていただきたい。

著者プロフィール:萩平和巳

京都大学大学院情報工学 修了。三菱商事株式会社のIT戦略部門、海外支社(米英独)、戦略IT事業会社立上げ等を歴任。2000年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。2006年より、同社BTO日本共同代表を務める。その他ハイテク・メディア・通信グループのグローバルでの共同リーダーなども歴任。その他大手メディアやベンダーなど主催のITセミナーにおける基調講演やIT系専門誌への寄稿活動、TV出演(スカイパーフェクTV)など多数。2011年5月よりベイカレント・コンサルティングに入社、執行役員に就任。戦略コンサルティング事業、マーケティング、採用業務などを統括。著書に「ITの本質」(ダイヤモンド社)、「日本製造業の戦略」(ダイヤモンド社)がある。  


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