面接試験も、世に騒ぐほどのことはない。面接試験のための指導や、ましてや塾などはもってのほか、ノックの仕方、ドアの開け方、礼の仕方、応答の仕方などなどのノウハウの伝授、そんなものは笑い物である。筆者は大手企業の入社面接試験員の経験があるから、面接試験の内容についてよく分かる。クラブ活動でも良い、アルバイトでも良い、人やグループと接することに努め、その中から学ぶことが沢山ある。日常的に問題意識を持って生活するのである。
そうすると、政治問題でも経済問題でも社会問題でも、あるいは国際問題でも、仲間と議論になる。自分の考えが整理できるとともに、考えがまとまる。
礼儀作法にしても、その辺に教材がゴロゴロある。例えば身近で同じ若者が礼をするとき、体全体を曲げないで、クビだけを曲げるのを見て、おかしいと思うだろう。問題意識がないと、おかしいとは決して思わない。それでは自分もそういう挨拶の仕方を改められない。
電車や公共の場で非礼な、あるいは思いやりのない言動はおかしいと思うだろう。例えば電車の中で弱者に席を譲らない、禁じられたケータイで大声を上げて話す、口に手を当てないで大あくびをする、人前で平気で化粧をするなど、問題意識がないとおかしいと思わない。いつまでも、自分も反省しない。問題意識を持って生活をする、そういう積み重ねが自分を変える、自分を磨くことになる。それを、「良識を持て」と冒頭に表現した。そういう日常的な積み重ねが、自然に面接試験に表れるのである。本当は、幼少の頃からの家庭教育や地域との接触などの中から身につくことだが、4年間でも十分である。金をかけて、急ごしらえの面接用言動を身につけても、化けの皮はすぐ剥がれる。
最近話題になっているが、大学が4年間で学生に社会で通用する力を身につけさせること、特に実務的な力を身につけさせることが必要であるという議論がある。それはそれで、否定をする気はない。しかし、むしろ人間としての教育が求められるのではないか。人間としての教育の不足が、入社試験時に表面化する学生の質の低下や、本人たちの自信のなさにつながっているのではないか。4年間を、その場しのぎの非生産的な遊びに浸りっ放しになったり、ノホホンとただ無意味に過ごしたり、コセコセと実務を身につけようとしたりなどせずに、視野を広く持って、伸び伸びと、しかも常に良識と問題意識を持って過ごそう。
さて、入社後の仕事のやり方である。これも、お笑いとしか言いようのない現象が見られる。女性講師が社員の背中や腰に手を当てて、礼をする際の体の角度を教える。ドアのノックの仕方、ドアの開け方、鞄の置き方、名刺交換の仕方、座り方、書類の出し方、はては出されたお茶への対応の仕方などなど、なぜそこまで手取り足取り指導をする必要があるのか。バカバカしいにもほどがある。笑ってしまう。逆にいうと、それほど新入社員が心配だということだろう。しかし、実は周囲に鏡となる先輩がいないということでもある。
これについても、先に触れたような日常的に問題意識を持った良識ある考え方や行動から醸成されるものである。日常生活の中で身につけてきた自然体でいけるようにしたいものである。さらに、日常業務の中で周囲の先輩を見習うべきである。反面教師も含めて。ただし、先輩を反面教師と認識するにも、本人の積み重ねた力がなければ認識できない。
若者よ、かくして、企業選びも、入社試験も、入社後のことも、常日頃から心していれば、恐れることは決してない。自分自身の人生である。自分で熟慮した信念のもとに、良識をベースにして、問題意識を持って、広い視野で、伸び伸びと行こう。道は開ける。
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。
その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授