イジメと虐待から子どもを守るために――企業経営の視点に立て生き残れない経営(2/2 ページ)

» 2012年10月22日 08時00分 公開
[増岡直二郎(nao IT研究所),ITmedia]
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どうすべきか

 どうすべきかを考えるために、最近話題になったイジメによる自殺事件と児童虐待死事件の主な経緯と問題点を辿ってみよう。この2例は、氷山の一角にすぎない。

 滋賀県大津市皇子山中学校男子2年生の、痛ましく、残念極まりない自殺事件である。

 1、昨年9月、被害者の父親が2回にわたって男子生徒の金使いについて学校に相談したが、父親から「息子に言わないで欲しい」と要望があったため、学校は調査をしていない。

 2、昨年9月中旬、被害者家族が滋賀県中央子ども家庭相談センター(児童相談所)と滋賀県子ども・子育て応援センターに相談したが、両センターともイジメに気付かなかった。

 3、昨年9月下旬、皇子山中学校体育祭で男子生徒が友人らから暴行されているところを女性教諭が目撃し注意しており、10月初旬複数教諭がイジメの可能性を疑っていた(これらは、学校がイジメを認識していなかったと弁明することと矛盾している)。

 4、事件後、生徒対象に行ったアンケート調査について、学校が父親に口外しないように誓約書を書かせていたこと、一部を市教委に提出していなかったことが今年7月に判明。

 5、昨年11月、大津市教委はアンケート調査にイジメを受けていたとあったにもかかわらず、自殺との因果関係は不明と発表。

 6、昨年11月下旬に大津市教委が調査を打ち切っていた。

 7、今年7月中旬、大津市越直美市長がいじめと自殺の因果関係を認めて和解を示唆したが、市教委澤村教育長は依然として因果関係を否定。

 8、今年7月、大津市教委が県教委や文科省に報告書を提出していなかったことが発覚(訴訟中が理由らしい)。(以上は、諸マスコミ報道から筆者が整理したもの)

 こうして経過の要点を見てくると、問題点が明らかになる。

 (1)まず、関係機関や関係者がいずれも真相を解明しよう、2度と同じ事件は起こすまいという、真剣な考え方や姿勢に欠けていることがうかがわれる。

 (2)事を荒立てたくないのだろうが、隠蔽(いんぺい)体質が強烈に現われている(後日暴露されている)。

 (3)関係者や関係機関の間の連携が、全くできていない。

 (4)責任のなすり合いが見られる。

 とても、企業では考えられないことが起きている。企業でも、これらの問題は部分的に起こり得るが、すべての問題が同時に絡み合って起きることはあり得ない。もしあるとすれば、企業は翌日から存在を否定される。公の機関だから、生き延びているのだろう。

 次は、広島県府中町石井城小5長女の、涙なしに語れない虐待死事件である。

 1、県は2001年、両親の離婚で養育困難になったとして生まれた直後の唯真さんを乳児院や児童養護施設に入所させた。

 2、その後、母親である堀内容疑者が引き取りを希望したため、祖母の養育を条件に2006年3月に児童養護施設の退所を認めた。

 3、2009年2月頃、当時居住の東広島市に対して、近隣住民から「唯真さんが虐待されているのではないか」という通報があり、調査の結果、県西部こども家庭センターが2011年3月までの約2年間、児童養護施設で保護していた。

広島県子ども家庭課が2009年2月に虐待通告を受けて事情を聴いた際、堀内容疑者と祖母が「体罰は必要だ」などと話し、しつけのための暴力を肯定する考えを示していた。

 4、しかし、2011年3月に県は「親子関係は改善し、虐待のリスクは低くなった」と判断、再び保護を解除していた。児童養護施設は、最後の3カ月間は一時帰宅をさせるなどして再び虐待が起きないか確認した上で堀内容疑者の下に戻したという。児童相談所は長女を母親の下に帰す際、転居先の府中町に虐待があったことを電話で連絡したが、その後の対応は町の判断に任せるとして経過報告を求めなかった。町の担当者は深刻なケースと受け止めず、上司に報告しなかった。長女の転校先の学校にも情報は伝わらなかった。

 厚生労働省は、虐待された児童が家庭に復帰した後の数カ月間は特に注意が必要だとして、児童相談所や学校など関係機関の十分な連携を求めている。手引書でも、児童福祉司の指導は少なくとも6カ月間程度必要と定めている。

 学校も教育委員会も、虐待については把握していなかったと言っている。大判教頭は「(虐待の経歴は)新聞で初めて知った」と言う。また府中町教委も、虐待については「まったく知らされていなかった」と言う。同教委によると、虐待の疑いがある児童が転入してきた場合、県こども家庭センターから情報提供があり、町や学校などがケース会議を開いて対応協議するという。(以上、読売・毎日・産経新聞、nikkansports com.、livedoorNEWS)しかし、その後の調査で次のことが判明している(朝日新聞2012.10.7.)。

 1、虐待を受けて2011年3月までの2年間保護されていた唯真さんを県が自宅に戻した際、国の指針に反して家庭への支援を継続せず、「終結処理」にしていた。

 2、家庭復帰を決める際も、同様に指針に従わず、唯真さんの意思を確認していなかった。

 3、県西部こども家庭センターは、町の担当者に唯真さんを家庭に戻したことを電話で伝えたが、「要保護児童対策地域協議会」開催を求めなかった。

センターの衣笠所長は「唯真さんは一時帰宅前まで、一貫して帰りたいと言っていた。家庭復帰を決める前に直接面会して意思を確認すればより丁寧だったが、当時は母子関係が良好と考え、問題ないと判断したのだろう。復帰後の見守りをしなかったことも、慎重に観察した結果だと思う」と話したという。以上から、いくつもの問題が浮き彫りになる。

 (1)関係機関が、連携を欠いている(学校や教育委員会が虐待について全く知らなかったとは、県センターの怠慢ではないか)。

 (2)関係機関は、本来任務を果たしていない(県センターが本人意思確認を怠ったり、所定の手続きをとらなかったり、安易に終結処理をしたりと、本来の任務を果たしていない)。

 (3)関係機関の考えが甘く、責任回避をしている(センター所長は、児童保護のことを考えるより、センター擁護のことを考えた発言である)。

これでは、今後も事態が改善されないことは間違いない。

 この場合も、企業では考えられないことが起きている。仮に企業で重大な製品不良事故が市場で発生した時、あるいは安全上や人間関係についての重大ミスを起こした時、「知らなかった」とか、「連絡が漏れた」とか、本来業務に手抜きがあったとかなどの場合、関係者は明確に厳しく責任を取らされる。それが続くと、企業の存在は社会から否定される。イジメや虐待の例では、公の機関だから安穏としていられるのだろう。

 さて、これほど深刻な問題に対して(イジメられ、虐待される子どもたちはどんなに苦しい思いをしていることか、彼らを救うために)どう対処すべきか。急がなければならない。企業経営レベルで考えるべきである。

 1、物事の決まりや進め方を改革すべきである。企業では、問題を再発させないための業務改革、新しい取り決めなどを、素早く、しかも強力に実行するのが当たり前である。

 (1)規則を守らなかった関係機関や関係者を厳しく罰する(例えば、大津市イジメ事件で文科省などに報告書を提出していなかった大津市教委、情報を隠蔽した学校などを、あるいは府中町虐待事件で関係機関への連絡を怠った県センターなどを厳しく罰する法整備をすべきである)。但し、処罰を判定するための第三者委員会の設置が必要だろう。罰せられるとなれば、関係機関や関係者は必死に子どもを守ろうとするだろう。

 (2)学校評価や教員評価を変えるべき。「学校評価制度が入ってきて、学校にいじめがあるといっただけで校長の評価が下がる」(尾木直樹教育評論家、JCASTサイト)。某中学校の評価表では、イジメを発見して改善すると好評価になる。そうでなく例えば、一方でイジメ発見件数が多いほど好評価にする考えも取り入れるよう工夫すべきだ。

 (3)ただ、(1)のように厳しく罰するだけの減点主義では問題があると指摘されるかもしれない。であるなら、例えば連絡を密にして際立った成果を上げた場合は、第三者委員会判定の下に何らかの評価をするという加点主義の手法も取り入れたらよいだろう。

 2、体制を改革すべきである。企業では、問題を未然に防止するために組織改革、人材投入をごくごく当たり前に行う。

 (1)教育行政のあり方について、再検討する必要がある。例えば、教育委員会という組織をこの際抜本的に見直す必要があるのではないか。いくつも問題がある。教育長以外は非常勤でボランティアみたいなもの、形骸化している。教育素人で荷も重い。大津市事件では、身内をかばっている印象が強い(片山善博慶大教授 MSN産経ニュース)。委員公選制採用、文科省から独立した分権化、学校教育専念化など、大いに改革議論を起こし、早急に改革実行すべきである。

 (2)児童虐待相談の急増に児童福祉司の絶対数が不足し、児童相談所だけでの対応は限界に来ている(毎日新聞2012.10.7.)。子どもの悲劇を思うと、人材投入を優先すべきだ。

著者プロフィール

増岡直二郎(ますおか なおじろう)

日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。

その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。



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