連載
» 2015年07月21日 08時00分 公開

視点:Industry 4.0 10年後を見据えた発展途上の取り組み (3/3)

[長島 聡,ITmedia]
Roland Berger
前のページへ 1|2|3       

デジタル化の潜在力

 「繋がる」、「代替する」、「創造する」は、10年後どのような産業の姿を生み出すのでしょうか。それを考えるに当たってのキーワードは、「異次元の見える化」と「圧倒的な機動力の発揮」です。

 「異次元の見える化」は、サプライチェーン、組織・企業間連携、それらの過去と将来をあたかも1 つのテーブルの上に使いやすく、目に入りやすく並べる取り組みです。サプライチェーンの各プレーヤーのステータスと未充足ニーズ、社内各部署の創出する付加価値および連携状況や投入リソース、そして過去の経験を活用した将来の先読みなどが立ち所にかつリアルタイムで把握できるようになります。

 一方、「圧倒的な機動力の発揮」は、その瞬間瞬間に見える化された状況を踏まえて、ムリ・ムダ・ムラを瞬時に省きます。さらに、付加価値向上のスピードを高めるべく組織・企業間の役割分担を有機的に変化させていきます。高速PDCAによるボトルネックの解消やスループット増大、将来ニーズの織り込みによるモジュール戦略の高度化、自前に拘らないリソース設計やフレキシブルな事業展開などがその代表例です。

 こうした潜在力をより多く享受できる産業には特徴があります。(図D参照)例えば、量産かつ部品点数が多くサプライチェーンが複雑な産業です。また、製品アーキテクチャ(基本性能要件とモジュール構造)を設計できるものの極めて構造が複雑で、設計に長い時間が必要な産業です。プラントエンジニアリング、航空機そして自動車産業などがこれに当たります。

図D:デジタル化のインパクトの大きな産業

 こうした場合、往々にして莫大な組み合わせを試して最適解を求めたり、人の工数の多くがデータ入力や細切れな待ち時間など煩雑なタスクに割かれたりするケースが多いのです。しかし、ITによってそれらを代替する事で、真に重要なことのみに時間を割き、圧倒的な生産性を実現できるのです。

 逆に、化学反応などメカニズムの解明が困難なものを含む産業においては、ITによる置き換えが不可能なためデジタル化におけるメリットは得ることができません。また、製品に様々な性能が求められ構成部品の点数が多い、量産され使用期間が長くメンテナンスやアップグレードが不可欠といった特徴をもつ設備機械や自動車産業なども大きなメリットを享受できる産業です。

 これまでは構造が複雑な故に、領域ごとの縦割りを敢えてつくり開発することで作業効率を高めていたため、どうしても全体最適から外れてしまう部分がありました。今後はデジタル化によって常に全体を捉えながら開発や生産をすることが可能となり、よりリーンかつ高性能な製品が生まれることとなるでしょう。

日本企業の進むべき道

 さて、こうした工場起点での製造業の復権を目指す欧州の動きに対して日本企業はどのような道を歩むべきでしょうか。日本では、1980年代からトヨタ生産方式、カンバン方式、ジャストインタイム、コンカレントエンジニアリングという概念がありました。後工程を意識した継続的な改善、在庫のムダの最小化、部門を跨ぐ協業などの改善を現場で続けてきました。Industry 4.0 を進めてきた欧州勢にも比肩する効率化を現場の知恵を使って生み出してきたのです。

 したがって、全ての設備・モノをITで繋げて効率化を進めるという欧州流のアプローチは過剰となるはずです。そこで、日本企業には、顧客接点を能動的に拡大、全ての未充足ニーズに対して新たな価値を追及するアプローチを取ってはどうでしょうか。

 自らの製品価値、その製品を含むシステムに求められる価値、購入検討から廃棄に至るまでのライフサイクルで求められる価値、更には顧客の本業以外の業務の取り込み、そして顧客の本業への貢献をも念頭に付加価値を追及するのです。社内の各部門やパートナーは、各々の能力を柔軟に変容させながら付加価値創出の一端を担うのです。

 開発や生産は事前に未充足・潜在ニーズを織り込み、組み合わせで即座に新たな付加価値を提供する体制を営業とマーケティングが整えます。また、パートナーの能力やリソースをいつでも有効に使えるように保持し、要素技術の多様性と組み合わせによる付加価値を柔軟に追加していきます。

 加えて、各部門の力の結集により顧客に生まれた付加価値を見える化することで、各主体の切磋琢磨を促すのです。ITはそのための道具という位置づけです。これらはまだまだ夢物語かもしれません。ただ、将来のありたい姿をしっかりと見据えてそこから逆算、準備する事で現実のものへと変えていく力が生まれるのではないでしょうか。日本企業の底力を発揮すべき時です。

著者プロフィール

長島 聡(Satoshi Nagashima)

ローランド・ベルガー 日本共同代表 シニアパートナー

早稲田大学理工学研究科博士課程修了後、早稲田大学理工学部助手、各務記念材料技術研究所助手を経て、ローランド・ベルガーに参画。工学博士。

自動車、石油、化学、エネルギーなどの業界を中心として、R&D戦略、営業・マーケティング戦略、ロジスティック戦略、事業・組織戦略など数多くのプロジェクトを手がける。現場を含む関係者全員の腹に落ちる戦略の実現を信条に「地に足が着いた」コンサルティングを志向。自動車戦略チームアジア代表を務める


前のページへ 1|2|3       

Copyright (c) Roland Berger. All rights reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆