中国におけるBEV普及・海外進出加速に示唆される日本自動車産業の未来(2/2 ページ)

» 2022年10月31日 07時01分 公開
[Ruijie Bao, 呉昌志ITmedia]
Roland Berger
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1、高いBEVへの受容性(新車販売における高いBEVシェアと充電装置の充実度)

2、「脱炭素」政策の強い推進力と充実したBEVに対する優遇施策

3、欧州系自動車メーカー(OEM)のBEV生産の出遅れによる需給ギャップ

 特に、欧州の国の中でもノルウェーが最初の進出市場として選ばれているケースが多い。ノルウェーは欧州諸国の中でBEV普及率が最も高く、2021年上半期の新車販売台数の内NEVのシェアは82.7%以上であり、中でもBEVのシェアは57.3%だ。

 また、充電設備が他国に比べて全土に多く整備されている。そして、NEVメーカーに対する優遇施策も充実している。例えば、自動車OEMへの減税施策やNEVに対する駐車場の利用無料/割引、高速道路の使用料割引等、自動車OEMと消費者双方に向けた優遇施策が数多く存在する。

 中国BEVメーカーは、国を挙げてBEV普及を目指しているノルウェーを海外進出の試金石として、欧州におけるユーザーの嗜好や事業環境を把握してから他の欧州諸国への販売網拡大を図る戦略を採っている。

欧州市場における中国BEVメーカーの成功の鍵(KSF:Key Success Factor)

 自動車OEMにとってメルセデスベンツやBMW等のプレミアムブランドの本拠地である欧州への新規参入・市場開拓は決して容易ではない。その中で、中国BEVメーカーはデザイン性の高さと充実した車載ソフトウェア機能、そして充実した機能に対してより安価な価格設定での市場拡大を図っている。

1、コストパフォーマンスを徹底的に意識した価格設定

  • 欧州市場に進出している中国BEVメーカーは、必ずしも低価格帯の車両セグメントのみを狙っている訳ではないが、欧州系OEMの同グレード帯では、より安い価格設定にしているため、欧州の消費者にとっては、かなりのお得感がある

2、デザイン性の高さ

  • 近年、中国EVメーカーは車両デザインを重視するようになり、著名なデザイナーをヘッドハンティングするまでにエクステリア・インテリアのデザインにかなり注力している
  • 特に新興BEVメーカーは、Teslaに対するベンチマークを徹底的に行い、見た目では負けないことを常に意識している

3、車載ソフトウェア機能(IVI(In-Vehicle Infotainment)、コネクティッド機能等)の向上による顧客体験の充実

  • Alibaba、Baidu、Tencent等の中国のデジタル企業と連携し、車載ソフトウェアの共同開発を進め、豊富なデジタル機能と先進的なユーザーインタフェースを実現。また、欧州市場に対してもどのような機能が求められるのか、顧客の声を基に現地向けにカスタマイズすることも厭わない

日本自動車産業への示唆

 翻って、足元で日本のNEV普及状況はいかがなものか。弊社ローランド・ベルガーが実施したグローバルの自動車産業の変化にかかわるマーケットトレンドスタディであるAutomotive Disruption Radar(ADR)によると、日本のNEV販売台数シェアと充電施設の数は中国、欧州の主要国と比べると大きく後れを取っており、その原因・課題をまず明確にし、対策を早めに検討しなければならない。このままではBEVに関するグローバルスタンダード策定への発言権が弱まり、日系自動車OEMの存在感は下がる一方であろう。

 これまで述べてきた中国のBEVの現状や中国BEVメーカーの海外進出戦略を踏まえた、日系自動車OEMへの示唆は大きく3つある。

1、民間・政府主導での事業環境のさらなる整備:

 さらなるBEV普及に向けては充電設備が圧倒的に不足している。現在、NEV購入に対する補助金施策は存在するものの、BEV普及・充電設備拡充に対する自動車OEMに対する減税施策やマンションやアパート住まいの住民を対象とする充電装置の設置支援/ルール整備が明らかに不足している。

2、海外進出を前提した製品開発の必要性:

 日本国内の環境整備を待っていては、日系自動車OEMのBEVシフトは遅れる一方であり、国内販売からを前提にしていては現状の遅れを挽回できない。例えば、中国BEVメーカーと同様にNEV先進国での販売を前提とした製品開発及び海外進出を加速させるべきではないか。NEV普及率の高い欧州諸国や、日系自動車OEMのブランドイメージが高いアメリカへ優先的に進出することが考えられる。まずは、日本国内で新製品を開発・販売し、海外進出する従来のビジネスモデルからの脱却が必要であろう。

3、新たなデジタルデバイスとしての再定義:

BEVの普及に伴い、消費者の車への認識が単なる移動手段から「移動するスマホ」へとシフトする傾向が垣間見られる。例えば、BEVの充電についてもガソリン車の給油とは全く異なる顧客体験となるはずである。そのため、車載ソフトウェア機能がより重視され、ガソリン車と比べた新たな顧客体験を実現するデバイスとして新たに定義するべきである。それを実現するには、国内の自動車OEM単独で進めるのには限界があり、国内のIT・デジタル企業とのさらなる連携は不可欠となるだろう。アメリカのGAFAMや中国のBATHのように、日本国内でのデジタルケイパビリティを集約し、連携していく方法を考える必要がある。

著者プロフィール

Ruijie Bao

ローランド・ベルガー プロジェクトマネージャー

中国同済大学車両工学部修了後、日系エンジニアリング会社、外資系コンサルティングファームを経て現職。自動車メーカー・部品サプライヤーを中心に、事業戦略立案、新規事業開発、海外市場の参入戦略、成長戦略、全社DX推進等、多様なテーマのプロジェクトに従事。中国・欧州をはじめ、多くの海外プロジェクト・クロスボーダープロジェクト経験を保有。


著者プロフィール

呉 昌志(Masashi Go)

ローランド・ベルガー プリンシパル/ 東京オフィス

京都大学経営管理大学院修了。国内大手システムインテグレータを経て現職。モビリティ/デジタル・IT分野を中心に、成長戦略、新規事業開発、海外市場参入戦略、BPRなど多様なコンサルティングサービスを展開。また、2016年より3年間、ローランド・ベルガーソウルオフィスへのトランスファーを経験し、現地企業との多くのプロジェクト経験を保有。


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