ファシリテーターは、コンテンツではなくプロセスに関与すると説明しました。そこで、ビジネスアナリシスの各知識エリアでの活動を「コンテンツ」と捉え、そのコンテンツを円滑に、かつ高品質で推進するための「プロセス」としてファシリテーションを活用することで、組織の変革を効率的かつ効果的に進めることが可能になります。
例えば、「引き出しとコラボレーション」知識エリアで、ステークホルダーから要件を引き出す際、プロセスで、ファシリテーションの「場のデザインスキル」を活用し、参加者が自由に意見を出しやすい雰囲気を作り、明確なアジェンダを設定することで、質の高い情報収集が期待できます。さらに、「対人関係のスキル」で傾聴し、質問を投げかけることで、潜在的なニーズや本音を引き出すことが可能になります。
また、「要求アナリシスとデザイン定義」知識エリアで、要求を整理し、ソリューションデザインを具体化するプロセスで、「構造化のスキル」が活かされます。情報を視覚的に整理することで、参加者間の認識のずれを解消し、より深い議論を促進できます。多様な意見の中から共通の認識を見つけ出し、全体像を共有することで、質の高いデザイン定義へとつながります。
このような効果を生むためには、ファシリテーションを「基礎コンピテンシー」として認識し身に着けていくことが大切になります。そのためには、俯瞰的視点と内省する姿勢を持ち続けることが重要だと考えます。基礎コンピテンシーを身に付けたビジネスアナリストの育成については、第9回:ビジネスアナリストの人材育成を参照してください。
しかし、ビジネスアナリシスやファシリテーションを学んだとしても、実際の現場でうまく適用できないという声もよく聞かれます。筆者は、その主な要因の一つを、「現場の関心度」にあると考えます。研修の場では高い意欲を持つ参加者が集まりますが、実際の職場では、そもそもビジネスアナリシスやファシリテーションに関心がない、あるいはその必要性を感じていないメンバーもいるのが実情です。
この課題を克服するためには、ファシリテーションの中でも特に「場のデザインスキル」を丁寧に実践することが有効と考えます。参加者が「なぜこの場に集まるのか」「この場で何を達成するのか」という目的意識を持てるように、場を設計することが成功への鍵となります。
例えば、事前にミーティングの目的と期待される成果を明確に伝え、参加者の役割を定義し、議論のルールを設定する「OARR」(※2)の考え方を徹底することで、参加者のマインドセットを変化させることができます。
DX推進やさまざまな課題解決のプロジェクトを進める際にも、ビジネスアナリシスの各知識エリアを「コンテンツ」と捉え、アウトカムを生み出すための「プロセス」としてファシリテーションを位置づけることで、以下のようなメリットが生まれます。
デジタル変革が加速する現代において、技術的なソリューションと同じかそれ以上に重要なのが、組織の中の人々をいかに巻き込み、合意を形成していくかです。ビジネスアナリシスに、ファシリテーションによるプロセス促進を取り入れることで、組織の意思決定の質とステークホルダーの満足度を同時に向上させることができます。
マネジメント層には、コンテンツとプロセスの両輪を意識し、ビジネスアナリシスのあらゆる段階で ファシリテーションを活用することで、真の組織変革を実現してほしいと考えます。
(※1)出展:日本ファシリテーション協会(FAJ)_ファシリテーションとは?(2025/6/30参照)
(※2)参考:OARR FAJ_とっさのファシリテーション 会議の最初に行う4つの大切なこと(OARR)_YouTube(2025/6/30参照)
アイ&エス エス シー(ISSC)代表
IIBA認定CBAP(R) (Certified Business Analysis Professional)
高度情報処理技術者試験 システムアナリスト
ITコーディネーター(9054812024C)
ISMS審査員補(ISJ-C10242)
【略歴】
広島大学卒業、リクルート、広島のIT企業で大手企業の期間システム開発などを経て独立、公共系企業でのPMOなどに従事してきました。最近は、DX推進やCloud、AIなどの活用研修講師や、ITコーディネーターとしてDX推進、DX推進者育成支援などを行っています。
IIBA日本支部では、ビジネスアナリシスに関する参加型の部会・委員会活動を行っています。こちらをご参照ください。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授