適社性の考察に有用なアプローチの1つが、過去の成功と呼べる事業、失敗した事業の要因を棚卸し、自社の「成功の方程式」をひもとくことである。自社の独自技術が生きる、強力な流通パートナーが活用できる、何等かの理由で競合が手を出したくない面倒な市場である……など、事業で勝ち続けられる理由はさまざまであり、かつ複合的なことが多い。
それを一般論ではなく、自社ならではの言葉で書き下してみる。それを今着目している顧客ニーズ・提供価値と照らした時に、自社の「成功の方程式」にのっとったものなのか、という目線でフィルターをかけてみるとよいだろう。
上述の視点から初期的な事業仮説が構築できたら、それをスナップショットではなく、時系列の戦略ストーリーとして立体感を持たせていく。
非常に簡略化して述べると、新規事業には大きく2つのハードルがあり、いずれの克服難易度が高いかは事業特性により異なる。1つ目が市場開拓のフェーズ。特に世の中にまだ類似製品・サービスがない事業の場合、いかに顧客ニーズを掘り起こしていくか、それをどのような顧客接点で実現していくか、という点をリアルに想定しておくことが必要である。
当該製品・サービスが真新しく、その有用性が顧客にとって自明でない場合は、例えば市場開拓にあたってコンサルティング営業や、そのためのノウハウを補完する販売パートナーが必要となってくるかもしれない。
次に、競争激化のフェーズ。市場が立ち上がってくると、当然競合も目をつけてくる。そうした中で持続的な競争優位を築くには、将来の想定競合の動きに対する対策がストーリーに組み込まれていなければならない。
つまり、想定競合は誰で、どのような戦いを仕掛けてくるか。それに対し、自社はどう差別化し、競争優位を持続させるのか。独自技術か、流通網か、はたまた事業展開のスピード感なのか。
そこまで徹底して問うことで、はじめて事業仮説としての良しあしが判断できる。市場参入のスピード感、顧客に対するプライシング、市場投入後の製品・サービスのアップデート内容、そのための必要投資額やそのタイミングなどは、全て想定競合への対策を念頭に置いたものでなくてはならない。
また、差別化が単一の強みにより成し遂げられることは少なく、複数の強みの組合せが必要となってくる点や、それを必ずしも自社で完結せず、外部活用も視野に検討すべき点も考慮すべきだ。
以上で見てきたように、新規事業仮説の構築にあたっては、現地 ・現物での顧客ニーズの探索に始まり、適社性の考察を踏まえ、持続的な競争優位を見据えた時系列の戦略ストーリーにまで落とし込むことが必要である。これらは必ずしも直列的なステップではなく、各観点を行き来しながら仮説を進化させていく。
ただし、ここまではあくまで事業「仮説」にすぎない。このような仮説構築をスピード感を持って行った上で、構想した製品・サービスの有用性を実証実験(PoC)を通じて顧客に問い、柔軟にピボットしていく姿勢も重要だ。そのプロセスは決して生易しいものではない。専任の事業担当者が、いかに情熱をもって進めていけるか、という点も重要な成功要件になってくるであろう。
染谷将人(Masato Someya)
東京大学理学部物理学科、同大学院理学系研究科物理学専攻修了。
消費財・小売り、化学・素材分野や、イノベーション・新規事業・M&Aにかかわる戦略案件を中心として、グローバル・プロジェクトを数多くリード。クライアントワークの他に、ローランド・ベルガー東京オフィスの新卒及び中途採用担当マネージャーも務める。
Copyright (c) Roland Berger. All rights reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授