東京の街の“ローカルエキスパート”が、仕事の合間に一息つけるスポットやイベントを紹介します。
昭和中期ごろまでは街のインフラの一つとして欠かすことのできないものだった銭湯。しかし、家にお風呂があることが一般的である今日では、その存在感は希薄になり、需要の減少に伴い閉業する施設が後を絶ちません。
そんな中、時代の流れに応じて刷新する方向へかじを切った銭湯もあります。東京の豊かな文化的土壌を生かし、シーンをけん引するアーティストや建築家とコラボレーションすることで生まれたのが「デザイナーズ銭湯」です。
ここでは、デザインや建築の観点で特に優れた東京の銭湯3軒を紹介します。伝統が時を超えて受け継がれ、生まれ変わっていく現場を訪れてみてください。
1932年創業の黄金湯が大改装を行ったのは2020年のこと。年季が入ってはいますが、活気に満ちた憩いの場だった公衆浴場が、モダンな銭湯とビアバーが融合した施設に生まれ変わりました。
入り口の引き戸を開けるとすぐに目に入るのが、クラフトビールのタップを備えたフロント。ここは入浴料を支払ったりタオルをレンタルする番台でもあり、湯上がりにうれしい冷えたビールを提供するバーでもあります。さらにDJブースも兼ねており、コンクリート打ちっぱなしの室内に響くのは心地よい音楽。
男湯と女湯は壁で仕切られていますが、浴室の奥に描かれた富士山の絵は、どちら側からも眺めることができます。この作品は漫画家のほしよりこによるもので、ここが親交を育む場になるようにとの願いが込められているそうです。
湯船は複数あり、それぞれ温度が異なります。サウナで芯から温まった後は、開放的な外気浴スペースでクールダウンしましょう(通常は男湯のみ、水曜日のみ男女入れ替え)。
次に紹介するのはパラダイス。三田で90年愛されてきた「万才湯」が、昔ながらの銭湯の魅力とコンテンポラリーな感覚を織り交ぜて生まれ変わりました。一歩足を踏み入れれば、ヒノキの香り漂う異空間が広がっています。脱衣所に流れるBGMは、どこか懐かしさを感じる浪花節。さらに浴室へと進むと、そこは静けさに包まれたオアシスで、日本家屋のディティールが取り入れられた空間に、生き生きとした植物が生い茂っています。
湯船は青いタイル。広々としたサウナには国産ヒノキがふんだんに使われており、ほうじ茶のアロマ水によるロウリュともあいまって、心を穏やかにしてくれるでしょう。
通常は男性専用施設ですが、毎月10・20・30日の10〜24時はレディースデーで、女性専用となっています。
プロジェクションマッピングで演出された浴室がある久松湯も見逃せません。映像はアートコレクティブのアトリエオモヤによるもの。2003年に結成された同コレクティブは、身近な素材を昇華させた作品を制作しており、パリのシャルル・ド・ゴール国際空港にも作品が常設展示されています。
月に一度の、特別な湯を提供するイベントも魅力です。「こどもの日」にはしょうぶ湯、夏にはハッカの湯、秋にはラベンダー湯、冬至にはゆず湯など、季節ごとの香りが楽しめます。
「東京で最も美しいデザイナーズ銭湯5選」では、さらに銭湯を紹介しています。是非チェックしてください。
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明治学院大学 経済学部准教授