そもそも外資系企業、コンサルティング企業、新興のIT企業などでは上司と部下の年齢が逆転することはそう珍しくなかった。従業員の多くがそういうものだと考えて働いていたため大きな摩擦は起きなかったのだと考えられる。ところが、最近この悩みを抱えはじめたのが、和を重んじる伝統的な一般的な日本企業であるため、問題が深刻化かつ拡がっているのである。
ジェームス・C・アベグレンが「日本の経営」で指摘した日本型経営の三種の神器、「終身雇用」「年功序列」「企業内組合」によって、戦後の日本企業は奇跡の成長を遂げてきた。それから半世紀以上。90年代初めのバブル崩壊以降、“失われた10年”は15年になり、20年を超えてしまった。
一時期は隆盛を誇った企業内組合の組織率はいまや2割を切るといわれる。非正規雇用者が3人に1人以上になり、正社員の終身雇用を守るという経営者の言葉はむなしい。そんななか年功序列維持も幻想になりつつある。国内市場は成熟し上司のポストが限られ、定年延長や高齢者雇用も推進され始め、上司と部下の年齢逆転の潮流はもはや避けて通れないのだ。
未来への手掛かりは現場にしかない。年上部下をはじめ多様な人たちが活躍している企業を探し丹念に取材、取材チームや弊社コンサルタントたちとの議論も重ね、日本型ダイバーシティ組織がどうあるべきかを考察。「ポスト」と「報酬」による外発的動機付けモデルから、「組織の目的」と「個々の尊重」による内発的動機付けモデルへのパラダイムシフトの必要性にたどりついた。
エドワード・デシや太田肇同志社大学教授らの主張するように、アメとムチのマネジメントの時代は終わり、承認と動機付けのリーダーシップの時代に入ったのである。
また、コンセプチュアルな話だけでは現場で使えないため、以下の項目ごとに年下上司のやりにくさを解消し、年上部下と歩み寄るためのルールをあえて単純化してまとめている。
(1)コミュニケーション:上下関係が変化しても支障ないよう、呼称は「さん」で統一するなど
(2)モチベーション:誰かの役に立っていると実感できる仕組みづくりなど
(3)会議:「他人主語」「否定語」を禁止するなど
(4)報告・連絡・相談:メール日報などで気持ちを分かち合うなど
(5)取引先:役割・権限を予め決めておくなど
(6)面談・キャリアデザイン:上から目線にならないよう、良い質問者を心がけるなど
(7)褒め方:第三者を介して感謝を伝えるなど
(8)叱り方:「管理」しようとせず任せる範囲を創るなど
(9)飲み会:席順への配慮など
さらには、現場の年上部下、年下上司の定性的な肉声を拾うなかで、年上部下を十把一絡げに語ることの乱暴さを実感。まだまだ大くくりではあるが、男性の「左遷・降格タイプ」「定年後再就職タイプ」「万年非管理職タイプ」、女性の「雇均法第一世代タイプ」「一般事務OL歴20年超えタイプ」「パートママ・派遣タイプ」の6タイプに類型化し、巻末には彼ら彼女たちを動かすキーワードも収録した。
感情を持つ人やその集合体である組織を動かす法則に絶対的な正解はない。
そもそもパラダイムが大きく変わる現在、惰性の過去の延長に未来はない。当事者たちが視野を広げ、経験を共有し、知恵を創出し合うしか打開の道はないのだ。そのため読者の発想転換を促すべく、あえて極端な視点も盛り込んでいる。本書が増え続ける年下上司の支えとなり、年上部下をはじめ多様な人達が気持ちよく働く職場づくりの一助となり、日本企業がこれからの人と組織づくりを探るヒントになることを強く願う。
FeelWorks代表取締役・青山学院大学兼任講師
多様な部下を育て生かす「上司力」提唱の第一人者。早稲田大学ビジネススクール、大阪府立大学卒業。リクルートを経て、株式会社FeelWorks設立。「絆」と「希望」作りによるユニークな人材育成で話題を集め、「上司力研修」「キャリアコンパス」「Feelリーダーシップ」「プロフェッショナルマインド」など独自プログラムを開発、人間味溢れる講師も育て、多くの企業で好評を得ている。現場視点でのダイバーシティマネジメント推進、リーダーシップ開発、キャリア論には定評がある。「はじめての上司道」「上司力100本ノック」「女性社員のトリセツ」「若手社員が化ける会議のしかけ」「勉強会に1万円払うなら、上司と3回飲みなさい」など著書多数。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授