歴史と経営をハイブリッドに活用し現代の経営やビジネスに生かすビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

» 2016年11月17日 07時17分 公開
[皆木和義ITmedia]
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ハイブリッドの『名将の戦略』活用法

本書は次の章立てで名将の戦略にアプローチしている。

CHAPTER1 真田三代 三代それぞれが見せた不惜身命の真田魂

CHAPTER2 織田信長 近世への扉を開いた変革と独創、破壊と創造の勇将

CHAPTER3 豊臣秀吉 発想力と人たらし力で栄達を極めたサラリーマン

CHAPTER4 徳川家康 慢心の恐ろしさを知る史上屈指の名リーダー

CHAPTER5 上杉鷹山 海外からも高く評価される江戸時代屈指の名君

CHAPTER6 山田方谷 1000人の門人を育てた幕末の"再建の神様"

 最初に取り上げた真田三代(昌幸、信之、信繁)は、信長、秀吉、家康という圧倒的強者に翻弄されながら、どうサバイバルしていくか、それはさながら、中小企業や小さなベンチャー企業がどのようにして生き延びるかということと酷似しているように思われてならない。

 小が大とどう戦い勝利を得るか、生き延びるかの戦略と戦術、いわば「弱者の戦略」、誰とどのように提携するかや合従連衡のあり方、真田魂の発露ともいうべき真田三代の人物の三者三様の生き方や生き様を通して真田流サバイバル術を考えた。

 次に、戦国三英傑といわれる信長、秀吉、家康を取り上げ、彼らからは成功の原理や天下取りの戦略や手法を分析し考えた。同時に、人間の一生や「家」(家名)の存続という観点からは、その栄枯盛衰の諸相や、諸行無常について言及した。

 信長49歳、秀吉64歳、家康75歳の一生だったが、その寿命が変わっていたら、また、信長がもし本能寺の変で急死しなかったら、歴史はどうなっていただろうか。織田家の継承、いわば事業承継のあり方はどうなっていただろうか?

 この3人の役割、使命とは何だったのだろうか。どのように天下を取り、継続的に発展させて安定した平和な世の中をつくっていくか、何がそれぞれのステージごとの使命だったのだろうか。3人の天下餅のつき方、天下餅のリレー、バトンの渡し方やあり方の比較は一つの有益な示唆を示すのではないだろうか。

 上杉鷹山と山田方谷、そして恩田木工は、企業再建や経営改革を仕事の柱のひとつとする私にとっては最も参考にしている名リーダーといっても過言ではない。

 恩田木工については、真田三代の項で少し触れている。木工はまさに志の人であった。志半ばで倒れたが、その志は子息や盟友たちによって引き継がれた。その結果、志は開花し、信州松代藩は幕末近くには関東有数の雄藩となった。

 木工を思う時、吉田松陰を思い浮かべる。同時に、最近でいえば、やはり志半ばで倒れたが、世界中に日本食、和食の素晴らしさを広めようと心血を注いだ定食の大戸屋の三森久実前会長と重なってくる。

 鷹山は藩主(大名)、木工は代々の重臣の家に生まれた家老、方谷は農民出身の儒学者というそれぞれの置かれた立場で全力を尽くして改革を実践した。

 少し余談になるかもしれないが、お許しいただきたい。

 2016年5月の伊勢志摩サミットに合わせて開催された「G7倉敷教育大臣会合」の開催地が倉敷になったのは、2015年6月に岡山で開催された「岡山方谷まつり2015」の特別フォーラムがキッカケである。山田方谷の叡智と教えを現代に生かすべく開催に努力された方谷6代目子孫のN氏や実行委員会、関係者の皆さんの熱意と努力には頭がさがる。「積善の家には必ず余慶あり」という言葉があるが、彼らの山田方谷への熱い思いが伊勢志摩サミットの「教育大臣会合」という余慶を生んだと言えよう。

 本題に戻るが、この3人の経営改革の哲学、取り組み姿勢、改革手法などは現代でも大いに参考になる。本書をお読みいただいて、読者の皆さまもそれらを現代に合わせて変じて考えると腑に落ちることが多いのではないだろうか。

 歴史上の人物の史実やエピソードなどは新事実や新資料が発見されないかぎりどの本を読んでもそんなに大きく変わらないだろう。他方、自分の課題や視点を持って読んだ際には、彼らに学ぶことは非常に多い。その意味で、筆者流の学びとヒントのエッセンスを述べさせていただいた。

 今日という時代はグローバルな大競争時代である。極論すれば、弱肉強食の厳しい時代である。しかも、将来の先行きは不透明である。そのような視界不良、不透明の時代の中で、ぶれない軸と戦略をもってどのようにサバイバルし、生き抜くかのヒントを本書から少しでも見出してもらえるなら、著者として望外の喜びである。

著者プロフィール:皆木和義(みなぎかずよし)

経営改革&株式上場スペシャリスト(ターンアラウンド・スペシャリスト)

1978年、早稲田大学法学部卒業。 大学在学中から財界の官房長官といわれた名経営者の故今里廣記日本精工元会長に師事し、プロ経営者を目指して、経営、リーダーシップ等を研鑽し、ハードオフコーポレーション(東証一部)代表取締役社長、リソー教育(東証一部)取締役副社長、大戸屋(JASDAQ)社外取締役、経済産業省消費経済審議会委員などを歴任。日本において「プロ経営者」という職業の確立を目指すとともに、歴史と経営のハイブリッド型歴史研究家としても活動している。

 主な著書に、『軍師の戦略』『リーダーの究極の教科書 論語』(以上クロスメディア・パブリッシング)、『図解 稲盛和夫の経営 早わかり』『教養の日本史』(以上KADOKAWA)、『3000年の歴史に学ぶ 戦略の教科書』(宝島社)、『稲盛和夫と中村天風』(プレジデント社)、『MBAビジネスプラン』(共著、ダイヤモンド社)などがある。


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