「買う」はどう進化するか? 「買い方の未来」から事業価値を刷新する視点(4/4 ページ)

» 2019年01月16日 07時06分 公開
Roland Berger
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4、「買い方の未来」から事業を進化させる

 私は先ほど、これらを個別的で単一的な取り組み・機能と捉えるべきではないと申し上げた。ここで、読者の皆さんとエクササイズを一緒にしてみたい。4つの根源的ニーズを織り交ぜて、皆さんが提供している商品やサービスに全て当てはめてみることが重要だ。

 皆さんも日頃使うであろう「スニーカー」を例にしてみよう。

A、「教えてほしい」

 皆さんがほしいスニーカーを教えてくれる「レコメンド機能」は、さほど想像に難くない。その機能によって画像から検索・提示してくれるのはもちろん、色、素材、デザイン、サイズから選択できるのは当然だ。しかし、価値や用途となるとまだ進化の余地がある。通気性レベルの好みや、シーンや使い方に合わせた推奨は、いまはまだ決して満足レベルではない。サイズも単に何センチということではなく足の形状を3Dで把握し、zozo suitsのようにフィットを高める機会は十分に考えられる。このあたりのものさしづくりには価値がありそうだ。

B、「失敗しない」

 Warby Parkerのようなモデルはこれに十分に当てはまる。トップスやボトムスとスニーカーのコーディネートを世に評価してもらうのはうれしいことだ。実際に着用せずとも、自分の全身写真をつかって、足元だけをバーチャルに変更する方法だってある。それも360度で見られるようになるとさらに臨場感が出てくる。最後まではきつぶすことはまれであるから、最後はC2Cで出品も資金回収も簡単にできるといい。3D化できるスマホカメラで撮影し、個体番号を読みとって情報の自動取得・出品ができれば、とても便利だ。トランザクションは飛躍的に高まるだろう。

C、「便利に入手したい」

 「便利に入手」はスニーカーに限らずさまざまな商品に共通しているだろう。例えば、最も近いストックポイント(在庫場所)をすぐに見つけられ、それが近い場所にある場合にはUber Eatsのような消費者ドライバーがすぐに届けられる仕組みがあれば、これまで以上に早くその商品を利用できる。

D、「楽しみを加えたい」

 スニーカーという商品で、「楽しみ」を加えるのは容易でないように感じるかもしれないが、決してそんなことはない。Nike+は経過観測やトレーニングアドバイスを提供してくれるものとして、そのはしりといえるかもしれない。自分のトレーニングレベルや進化に対してステータスを与えていくやり方もあるし、それによって新しい商品特典を付与すれば囲い込みにもつながる。スニーカーとファッションのコーディネートをアップロードして投げ銭形式にすると、購入者の愛着もひとしおだ。視聴者としてもファッション誌に勝るコンテンツになるかもしれない。

 そのスニーカーで走ったランニングコースを履歴化したり、域内を制覇するとステータスがもらえたり。こういったサービスによって、リピート顧客化が加速するというわけだ。

 立場がメーカーなのか、小売りなのか、バイヤーズエージェント(消費者のためにアドバイスをするプレイヤー)なのかによっても、これらの当てはまり方は変わるであろうし、商品特性によっても当然異なってくるが、いずれにしても、これらのアクティビティを通じて、自らの立場(ポジション)や商品特性を進化させられる可能性がある。

 例えば、AmazonやZOZOに販売を依存したメーカーだとしても、コレクションインターフェース(いままで買ってきた商品をスマホでバーチャルにうまくディスプレイしていく、など)やゲーミフィケ―ション(運転技術の進化が点数表示されて、それに向けて努力する楽しさ、など)をうまく使って消費者の購入後の楽しみを加えていくことで、オウンドメディアや自社ECに消費者を誘導することだってできるかもしれないのだ。結果的に、単なる作り手ではなくD2C(Direct to Consumer/User)ポジションの色彩を強め、ブランド力をさらに強化できるかもしれない。

 単なるメーカーだからやれることはここまでだ、と諦めることはない。小売頼み、マーケットプレイス頼みから、新しいステージへと脱却できるチャンスが、この取り組みから生まれてくる。

 B2Cを中心に語ってきたが、B2Bも同様だと考えられる。Bとて教えてほしいし、失敗したくないはずである。応用できる要素は多いだろう。

 繰り返しになるが、消費者の根源的ニーズは過去来ずっと存在しているものの、それの満たし方には劇的な進化がある。根源的ニーズを見失わず、「買い方の未来」に焦点を当てて商品価値・事業価値を上げていく方法はきっとある

著者プロフィール

中野大亮(Daisuke Nakano)

ローランド・ベルガー パートナー/未来構想センターヘッド

東京大学法学部を卒業後、米国系戦略コンサルティングファームを経て、ローランド・ベルガーに参画。製造業、スタートアップ、鉄道・航空などを中心に幅広いクライアントにおいて、事業戦略、成長戦略、全社ポートフォリオマネジメト、M&A/PMIなどのプロ

ジェクト経験を豊富に有する。IPS(Industrial Products and Services)のコアメンバー。また、消費財やメディア・コンテンツの領域も得意分野とし、政府の主導するクールジャパンなどへの支援も行っている。


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