付加価値労働生産性向上に向けた留意点を3つ挙げる。
「手始めに、RPA(Robotic Process Automation)やAIを活用した既存事業の業務効率化余地を検討しよう」では何も変わらない。まず新規事業に期待する付加価値額(=労働投入量×生産性)を明確にし、逆算で既存事業の生産性向上目標を定める。順番が逆になると、新規事業は立ち上がらないし、既存事業には「また効率化か」という疲弊感が鬱積する。どんな事業にどれだけの人財を投入し、どれほどの生産性を期待するのか。ビジョンが共有されてこそ、既存事業も暗黙知の形式知化やデジタル化による生産性向上にモチベーション高く取り組むことができる。(図A1参照)
事業は人なり。「個」人の適所適財なくして需要創造はおぼつかない。ただし、既存事業の部門長による評価は徹底排除すべきだ。これは、優秀な人財を拠出したがらないから、だけではない。そもそも「優秀」の定義が異なるからだ。既存事業のコア人財と新規事業創造人材は別物。既存事業のコア人財を集めても機能しない。過去の成功の体現者である経営者も同様で、経営者に「事業創造人財要件」を定義してもらったところ、全く的外れな要件ばかりだったという経済産業省の調査もある。
単一の価値観からイノベーションは生まれない。観察力、他社活用力、試行錯誤力、捨てる力、質問力など、事業創造に関連する「力」はさまざまある。これらの力を全て併せ持つ人財は存在しない。また、ひとくちに事業創造といっても、発想フェーズと実行フェーズでは求められる人財要件も異なる。発散型人財、収束型人財、実行型人財をバランスよく配置し、そこに業種・機能やデジタルの専門人財などを加えていく「妙」が求められる。ローランド・ベルガーの有する事業創造人財評価ツールの活用も手だ。(図A2参照)
既存事業の業務効率化一辺倒のBPRはもうやめにしよう。日本企業が、付加価値の拡大と業務効率化をセットにした「適所適財型BPR」、ひいては真の生産性向上へと舵をきることを願ってやまない。
田村誠一(Seiichi Tamura)
外資系コンサルティング会社において、各種戦略立案、及び、業界の枠を超えた新事業領域の創出と立上げを数多く手掛けた後、企業再生支援機構に転じ、自らの投融資先企業3社のハンズオン再生に取り組む。更に、JVCケンウッドの代表取締役副社長として、中期ビジョンの立案と遂行を主導、事業買収・売却を統括、日本電産の専務執行役員として、海外被買収事業のPMIと成長加速に取り組んだ後、ローランド・ベルガーに参画。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授