カーブアウトM&Aを成功に導く4要点 〜スピンオフ・インデックス変調を超えて〜視点(2/2 ページ)

» 2020年04月06日 07時05分 公開
[田村誠一ITmedia]
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3)HOW:力点を選択する

 カーブアウト・ディールには、「スピード」「クオリティー」「バリュー」の3要素間にトレードオフが存在する。

 規制や経済的事由からカーブアウトを検討するなら、スピードが全てに優先する。仮に一時費用がかさみ、切り出し事業の売却価額が想定を大きく下回るとしても、時間を買わなければならない。日本電産による独コンプレッサー事業売却(2019年4月)は、独禁法抵触回避のためのカーブアウト。並走する同業競合買収案件との関係から、198億円の譲渡損失を余儀なくされた。スピードにこだわるなら附帯リスクは甘んじて受け入れなければならない。

 事業の継続性、人財や仕入れ先の維持を重視するなら、クオリティー第一。 RemainCo、NewCo双方への影響を最小限に留めるべく、コトは慎重に進めなければならない。 NewCoとの顧客、仕入先、情報システムの分離方針検討はもちろん、カーブアウトを変革の好機と捉え、RemainCo全機能の業務プロセスを詳細調査し、未来志向で最適化を図る活動の並行立上げも考えたい。

 NewCoのバリュー最優先、というケースもあろう。この場合、切り出し事業の売上及び損益を左右する KPIをきめ細かく定義し、その管理を強化する必要がある。あえてカーブアウト・ディールの開始タイミングを遅らせてでも、目標 KPIの達成にこだわることが、切り出し事業の EBITDA改善、ひいては事業価値(売却価額)最大化につながるからだ。

4)WHO: 買い手を理解する

 ディール遂行前の最終ステップは、買い手の理解。PEファンドに代表されるフィナンシャル・バイヤーの意図と、水平・垂直統合を志向するストラテジック・バイヤーの意図は当然異なる。目的、境界、力点の3点に照らした判断が求められる。

 スピード重視の場合、NewCoに 「Stand-Alone」 能力をもたせる時間的猶予がなく、「Stand-Alone」 を求めるフィナンシャル・バイヤーは、買い手となりにくい。反対に、買収後の業務シナジー創出を前提とするストラテジック・バイヤーの要求は、むしろ「Focus」。さもなくば、ディール成立後に NewCoの本社、営業組織、生産拠点・設備の削減を検討する必要がうまれる。加えて、RemainCoが NewCoの販売先となっている場合、買い手は取引関係の維持を要求するだろう。 (図A2参照)

 詰まるところ、ディール開始前のシナリオ準備がカーブアウトの成否を左右する。「神は細部に宿る」と言うが、細部はディール開始後だけでなく、開始前から存在するのだ

著者プロフィール

田村誠一(Seiichi Tamura)

外資系コンサルティング会社において、各種戦略立案、及び、業界の枠を超えた新事業領域の創出と立上げを数多く手掛けた後、企業再生支援機構に転じ、自らの投融資先企業3社のハンズオン再生に取り組む。更に、JVCケンウッドの代表取締役副社長として、中期ビジョンの立案と遂行を主導、事業買収・売却を統括、日本電産の専務執行役員として、海外被買収事業のPMIと成長加速に取り組んだ後、ローランド・ベルガーに参画。


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