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» 2016年03月03日 08時08分 公開

ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術:なぜ一流の人は歴史を学ぶのか――名言に学ぶ「見通す力」の作り方 (3/3)

[ITmedia]
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 2014年の消費税率引き上げの結果、その年の4―6月期のGDPが6.8%減と大幅に低下しました。これは、政府をはじめ多くの予測機関が経済見通しを見誤ったことを示唆しています。少なくとも数か月前までは、せいぜい4%程度の低下と見ていたからです。

 過去に日本は、1989年の消費税導入(3%)、97年の引き上げ(5%へ)という2度の経験をしています。しかし過去の増税の場合、その前に何らかの減税を実施しており、数年の幅で見たネットの増税は、決して大きくありませんでした。それが今回は、純粋な形での増税だったのです。

 一方で政府は、相当規模の補正予算を組んで増税のマイナス効果を相殺する努力はしていました。しかし消費に関しては、やはり相当の落ち込みになることを覚悟する必要があったのです。現実に当時の速報値によれば、消費は前期比マイナス5%という大幅な落ち込みとなりました。

 経済予測はもちろん、将来の見通しを行なうものこそ、過去の経験に学ばなければなりません。日本の民間機関の経済予測は、政府の見通しを強く意識して、それに引っ張られる傾向がある、との指摘もあります。過去の経験に学ばず同じことを繰り返せば、結果はおのずと見えています。

 消費税は分かりやすい例ですが、これからの社会の変化を予測する時に、実は過去の事例から学べることは数多くあります。迷った時は、「過去に学んでいるかどうか」で大きな違いが出てくるはずです。

未来のことは分からない。しかし、我々には過去が希望を与えてくれるはずである

もう1つ、ウィンストンチャーチルの名言をご紹介します。

ウィンストン・チャーチルは、誰もが知る20世紀を代表する政治家です。第二次世界大戦時のイギリス首相として活躍し、一度退いた後、6年後に再度首相を務めています。

 私自身、今の日本の議論を聞いていて気になることがあります。それは、「先が読めない時代になった」という表現です。しかし、今までに先が読めた時代などあったのでしょうか。

 最近私は、高橋是清や後藤新平はじめ、今日の日本を築いてきた政策家のことを読み書きすることも多いのですが、彼らが生きてきた時代は、まさに「毎日が経済危機」でした。今のように実態を把握するための統計も十分に整備されていません。またさまざまな経済理論もありませんし、ましてや計量的に何らかの予測やシミュレーションができるなど、ありえませんでした。そうした中で、高橋是清や後藤新平は自分自身の頭で考え、国を動かしていきました。知識ではなく、地頭で勝負する時代だったのです。

 そうした際は、過去の経験に基づいて、自信を持って判断するしかない――。チャーチルはそのように主張しているのです。問題は、自らの経験に自信を持てるような、そんな時間の過ごし方をしてきたかどうか、ということでしょう。今を懸命に生きてその結果を積み重ねていけば、つまり自信を持てるような過去の経験があれば、将来に不安があってもそれを乗り切れます。先が見えない……というのは、自分自身が十分努力して結果を残してこなかったことの言い訳に聞こえます。

 日本経済の情況を振り返ると、無我夢中で努力して成果を残した昭和の時代とは異なり、バブル後の平成時代は社会全体が問題を認識しながら先送りし、現状から逃げる姿勢を示してきたように思います。不良債権問題の先送り、財政赤字累積の放置、グローバル化への対応の遅れ……。

 明らかに問題があるにもかかわらず、それを避けながら、一方で「先が見えない」という言い訳をしてきたのではないでしょうか。チャーチルが今の日本を見たら、いったい何と言うでしょう。彼の別の名言が思い浮かびます。

「人間は真実を見なければならない。真実が人間を見ているからだ」

著者プロフィール:竹中平蔵(たけなかへいぞう)

慶應義塾大学教授、グローバルセキュリティ研究所所長。1951年和歌山県生まれ。73年、一橋大学経済学部卒業。同年、日本開発銀行入行。その後、大蔵省財政金融研究所主任研究官、大阪大学経済学部助教授、ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを歴任。98年に「経済戦略会議」メンバーとなる。2001年に経済財政政策担当大臣に就任し、金融担当大臣、経済財政政策・郵政民営化担当大臣、総務大臣などを務め、小泉純一郎内閣の「構造改革」を主導した。06年より現職。博士(経済学)。ほかに、アカデミーヒルズ理事長、一般社団法人日本経済研究センター研究顧問、株式会社パソナグループ取締役会長、オリックス株式会社社外取締役、世界経済フォーラム(ダボス会議)理事などを兼務。著書多数。


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