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» 2022年03月07日 07時00分 公開

新たなステージに入ったモノづくり企業の中国ビジネス視点

年々、不安が増している。だが決して避けては通ることはできない。それが中国ビジネスに対する我が国モノづくり企業の戦略的位置付けといえるのではなかろうか。

[五十嵐雅之,ITmedia]
Roland Berger

中国ビジネス進化の好機到来

 年々、不安が増している。だが決して避けては通ることはできない。それが中国ビジネスに対する我が国モノづくり企業の戦略的位置付けといえるのではなかろうか。

 21世紀に入り、中国は世界第二位の経済大国にまで高成長を遂げたが、これを円貨換算で名目値に換算してみると、仮に中国市場シェアを一定に保っただけでも、経済成長と物価高騰の波に乗るだけで、ここ10年間で日系企業の中国事業業績が3倍に跳ね上がったことを意味する。過去20年では12倍にもなる。

 ジェトロの調査によると、日系製造業が海外事業拡大を図る国として、米国・ベトナムを上回り、中国がコロナ以降も変わらずトップに位置付けられている。他方、今後の中国ビジネスの方向性が不透明と回答する企業も、年々増加傾向にある。実際、恒大集団に端を発した不動産バブル懸念、新疆ウィグル自治区などの人権問題、アリババにかかわる政府制裁など、中国ビジネスリスクは確実に高まっている。

 かつてのように、世界の工場として安価な生産力を期待する時代は既に終焉し、消費市場としての重要性が格段に増した。その変化に対応し、日系モノづくり企業は、中国ビジネスを進化できてきたのだろうか。将来的な売上計画を単純なGDP予測連動で策定していたり、事業運営を合弁相手の現地企業任せとして経営がブラックボックス化していたり、知名度だけを頼りに買収・提携先を選定してきてはいないだろうか。

 さらに中国は次なるステージに入りつつある。これまで変革・進化を怠ってきたとしても、非連続な変化を的確に捉えられれば、日系モノづくり企業の巻き返しの機会は十分にある。そこで、注視すべき中国の変化を読み解いていきたい。

恒大集団問題の本質的な意味合い

 2021年9月、不動産開発大手の恒大集団が経営破綻する懸念が高まった。リーマンショック級の世界不況を引き起こすきっかけになるのではないか、といった報道が連日なされていたことは記憶に新しい。その懸念は今のところ乗り越えているが、いまだ多額のドル建て債務支払いを控えており、S&Pからデフォルト可能性が極めて高いとレポートされるなど予断を許さない。

 今回の危機の裏側で、中国当局が関与を増やし、資産・事業の切り売りや一部債権放棄など、ステークホルダーへの制裁的な措置を講じることで、この難局を乗り越えようと画策している。ポイントは、救済するわけでも、破綻させるわけでもなく、中国当局が統制と制裁を強めていることにある。

 国家が制裁強化に動いたのは、破綻懸念ある企業に限らない。アリババの例以外にも、ネット出前サービス大手の美団(メイトゥアン)、配車アプリ最大手の滴滴出行(ディディ)など、ネット系新興プラットフォーマーへの制裁が矢継ぎ早に行われている。(図A参照)

近年、制裁を受けた中国企業の代表例

 習近平体制は、国家主席の任期制限を撤廃し、11月の重要会議で毛沢東・?小平に次ぐ「第三の歴史決議」を成功裏に採択した。異例の3期目に向けた権力構造を確固たるものとする中、現執行部の産業政策を理解することは極めて意義が大きい。中国当局の情勢に詳しいトランス・パシフィック・グループ社によると、近年、国家が統制を強める企業・産業には、(1)消費者向けプラットフォーム型、(2)カリスマ性ある経営者の存在、(3)本業に専念していない多角化企業、(4)米国型のビジネスモデル、といった共通項が見いだせるとの事だ。実際、制裁を受けた企業は、これら複数の項目が該当している。

 習近平体制下の中国は、長年続いてきた「先富論」、先に豊かになる者を富ませ落後した者を助ける、といった考え方を完全否定し、貧富の格差を是正する「共同富裕」方針に転換した。共同富裕構想に反すれば罰される、具現化に支援できれば新たな機会が生まれる。この原理原則を踏まえれば、日系モノづくり企業が進むべき道が見えてくる。

次なる中国ビジネス進化のかたち

 中国ビジネスは、既に安い労働力を確保しづらく、都市部富裕層を中心とした消費市場への過度な期待も寄せづらくなってきている。日系モノづくり企業が進むべきは、共同富裕を後押しする領域で、長期目線を持ちながら、地場企業・従業員と共存共栄関係を創りだすことだ。元来、欧米企業よりも、日本企業が得意な戦い方の徹底である。

 共同富裕構想では、GAFAのような「勝者総取り」型ビジネスが最も嫌われ、社会的弱者や環境問題への対応が色濃いビジネスが好まれる。地方部で雇用を多く生み出せる製造業は、依然として重要性が高く、「中国製造2025」においても、製造強国の仲間入りを目的に重点領域が定められ付加価値向上が志向されている。

 このような政府方針と日系モノづくり企業の競争力を掛け算で捉えると、高齢化社会に資する医療分野、スマート化が期待される工作機械・ロボット・農業機械、産業のコメと称される半導体・電子・通信機器は、特に有望性の高い領域といえよう。

 先富論が否定された中、メディアから注目されるような著名企業・カリスマ経営者と組むことは、もはや正攻法ではない。むしろ、派手さは無くとも、政府含む地域社会と良好な関係を保っている地場企業を見いだすことが肝要だ。このような地場企業と共に、グローバル市場に打って出て「中国」メーカーとして成功につなげていくような発想を持つことが、これからの勝ち筋になる。これまでの中国ビジネスは、生産・販売機能の出先機関にすぎないことが大多数だったが、むしろセカンドブランド的な発想を持ちたい。

 好例として、三菱電機の中国エレベータ関係会社SMECが挙げたい。中国経済が黎明期にあった1987年、地場重電メーカーの上海機電と合弁会社を創設した。三菱電機にとって中国発の合弁企業であり、旧国営工場を引き継いだ関係で苦難が続いたものの、近年は、平均10%の純利益率を維持するほど成功を収めている。当初からマイナー出資に留め、三菱のスリーダイヤを付与しない地場ブランドの下でも中国国内でトップレベルのシェアを獲得し、第三国輸出でも豊富なグローバル実績を誇るなど、まさに日系モノづくり企業が進化すべき今後の理想像に近い。

 日系モノづくり企業のこれからの中国ビジネスは、グローバルサプライチェーンの「機能」から、多極的なマネジメントを担う「分社」と捉えなおすことがカギを握る。コロナ禍を期に、ヒト・モノの移動制約を受ける多極化対応が不可避な中、地場企業と共に共同富裕に貢献しうる新たな中国ビジネスへと再構築すべきだ。その際、対面市場における政府方針の的確な理解・洞察、パートナー企業の地域社会での位置付け・真の競争力の目利き、中国を起点とした複線的な発展シナリオの設計、の巧拙が事業進化の成否を左右する。

著者プロフィール

五十嵐 雅之(Masayuki Igarashi)

ローランド・ベルガー パートナー

早稲田大学理工学部卒業、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(経営学修)。日系・米系コンサルティングファーム、三菱商事を経て現職。産業財全般、エネルギー、総合商社、リース等を中心に、事業戦略立案、新規事業開発、事業計画・投資評価、マーケティング戦略、組織構造改革等のプロジェクト経験を豊富に持つ。


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