第27回:キーエンス流・少数精鋭で高付加価値を生む「潜在ニーズに気付く力」の鍛え方マネジメント力を科学する(2/2 ページ)

» 2024年06月24日 07時01分 公開
[井上和幸ITmedia]
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 田尻さんは言います。「これでおもしろいことが起こるんです。今の流れで話していくと、お客さま側が相見積もりを取れなくなります。そうすると価格が維持できます。いかに高付加価値を作ったとしても、最終価格が維持できなければ、正直なところ儲かりはしません」。

法人ビジネスであっても、最終顧客であるCを知れ

 高付加価値に気付かせた上で、差別化まで加える。この潜在ニーズに気付かせる力が、いわゆるコンサルティングセールスになるのです。これができて初めて、高価格が維持できます。

 キーエンスでは、ニーズを発見するためにお客さまのところに足繁く出向いて、徹底的にヒアリングをします。ニーズとはお客さまの現場、利用シーンの中にある困りごとだからです。

 「そのきっかけをヒアリングで見つけていく。僕は“百聞は一見にしかず”の次が好きでして、本当はこんなことは言っていなくて僕が言っているだけなのですが、“千見は一体験にしかず”と」(田尻さん)。

 これはB2BビジネスでもB2Cビジネスでも一緒だと田尻さんは言います。

 「例えば美容商材の卸の会社がスーパーや美容院に卸しています。この卸は、美容院の成功に強くならなきゃいけない、スーパーの成功に強くならなきゃいけない。スーパーの成功とは商品を仕入れることじゃないですよね。売って粗利益を得ることが成功になってくるわけです。

 例えば“このトマトはすごく甘いんですよ”という特長のトマトがあります。あるファミリーがスーパーに来て“あっ、これはすごくおいしそう”と子どもが食べてくれたとしたら、これは価値があると思います。子どもが“パパ、これが食べたい”と言ったトマトがあれば、(甘い)トマトが100円だとしても、(子どもが食べたがっている)200円のトマトを、“こっちだな“となっちゃうじゃないですか。

 子どもが食べるトマトも、甘いトマトも別に原価は変わらないんですよ。でも、こっち(甘いトマト)は100円、こっち(子どもが食べるトマト)は200円。同じ仕入れ額の70円だとしたら、こっち(子どもが食べるトマト)は粗利を100円取れる。“あれ? こっちのほうが原価率が高いのに”となるわけですよ。

 卸はスーパーに対して強いほうがいいんですけど、実はエンドユーザーにも強くならなきゃいけない。エンドユーザーが喜んでくれると、スーパーが喜んでくれて、あなたも喜ぶ。この連鎖は市場の原理ですから、それをいかに知っているかです」(田尻さん)

 法人セールスに強くなることは、その企業の先のCを知らなければいけない。BtoBのビジネスなら、お客さまであるBの先にいるCを見に行くということです。上記の卸のケースであれば、私たち自身が生活者ですから、自分ごととして考えることもできますね。

著者プロフィール:井上和幸

株式会社経営者JP 代表取締役社長・CEOに

早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。その後、現リクルートエグゼクティブエージェントのマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援などを提供している。2021年、経営人材度を客観指標で明らかにするオリジナルのアセスメント「経営者力診断」をリリース。また、著書には、『社長になる人の条件』『ずるいマネジメント』他。「日本経済新聞」「朝日新聞」「読売新聞」「産経新聞」「日経産業新聞」「週刊東洋経済」「週刊現代」「プレジデント」フジテレビ「ホンマでっか?!TV」「WBS」その他メディア出演多数。


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