第28回:キーエンス流「価値ある商品」を創り出す組織構造とはマネジメント力を科学する(2/2 ページ)

» 2024年07月16日 07時08分 公開
[井上和幸ITmedia]
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 田尻さんはキーエンス時代に、商品企画の担当者に言われて感銘を受けたことがあったそうです。それは、「キーエンスの商品群の中に、キーエンスが作りたいと思って作った商品は1つもない」と。全てがマーケットイン、お客さまの潜在ニーズから作った商品だと話していて、「すげぇな」と感じたのを今でもありありと覚えているそうです。

 そもそも前提としてお客さまのニーズが起点なので、ムダな組織がまずないのだとも田尻さんはキーエンスの組織の特長、強さについて語ります。

営業と開発のけんかがキーエンスでは起こり得ない理由

 一般的に企業は、大きくなっていけばいくほど、商品開発や商品企画などのあたりに自社の組織起点で「何かできるんじゃないか」ということでいろいろと組織が出来上がっていくものです。

 それがしっかり市場ニーズを調査するための組織ならよいのですが、「なんかできることないかな」だけで作り上げた組織はムダだと田尻さんは断言します。矢印の起点がニーズ探索から始まっていない、商品企画の価値創出から始まっていたり、けっこう多いのが商品開発の商品実現から始まっていたりする組織です。

 営業と開発がけんかをするのは、営業と開発のせいではなく、組織構造の問題なのだと田尻さんはこの観点から指摘しています。

 一般的な組織なら、セールスはセールス、販促は販促、商品企画は商品企画となっています。

 対してキーエンスでは、セールスは販売促進や商品企画までを包括してみています。販売促進もセールスや販売企画まで見ています。一般的なマーケティング部門はリードを稼いできて「営業がんばってね」だが、キーエンスは違います。営業が受注できないようなリードを取ってきてしまったら、逆に時間のムダになり反省しなきゃいけないのです。

 「キーエンスでは役割分担はしていますが、責任を持てる範囲がものすごく重複しているんです」(田尻さん)

 例えばキーエンスの商品企画は、もともと販促もセールスも担当していた人が多いそうです。だから販促にもセールスにも強く、なんなら「自分が作った商品を僕が一番売ってやる」ぐらいに思っているとのこと。データ分析をして最適化して売るには、販売促進のほうがデータがそろっているからという話でも「もしもできないんだったら僕がやってやる」ぐらいに思っている人が営業ではない組織に揃っています。これもキーエンスの強さの源泉なのでしょうね。

 こうした各組織でのオーバーラップ、カバレッジの動きについては、各組織での定義がしっかりされていて、例えばキーエンスのマーケティング組織でいうと、1対Nの展開、デモツール、コンサルティングセールスの指導、シェアアップ方針などがきっちりとあり、その方向性に対してきっちりと評価制度、目標制度が組まれているそうです。

 「しかもキーエンスは高収益かつ高賃金なので、目標を達成していくとちゃんと分配が多くなります。みんなで成果を上げると、みんなの分配がちゃんと多くなる仕組みになっているので、努力する価値があるんです」(田尻さん)

 全組織が顧客ニーズ起点で動く組織定義・役割定義に、みんなで協業して取り組んで出た成果がしっかり還元される仕組み・ルール。これがキーエンスが最強である理由ですね。

著者プロフィール:井上和幸

株式会社経営者JP 代表取締役社長・CEOに

早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。その後、現リクルートエグゼクティブエージェントのマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援などを提供している。2021年、経営人材度を客観指標で明らかにするオリジナルのアセスメント「経営者力診断」をリリース。また、著書には、『社長になる人の条件』『ずるいマネジメント』他。「日本経済新聞」「朝日新聞」「読売新聞」「産経新聞」「日経産業新聞」「週刊東洋経済」「週刊現代」「プレジデント」フジテレビ「ホンマでっか?!TV」「WBS」その他メディア出演多数。


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