ここまで述べてきたことは、問題解決に入る前の「問題発見」あるいは「問題の認識」の重要性を物語っています。アメリカの発明家のチャールズ・ケタリングは、「問題をうまく表現すれば、半ば解決されている」という言葉を残しています。何が本当の問題かが分かれば、ほぼその問題は解決したも同然だということです。
逆に言えば、問題が解決しない場合の根本原因は「問題の解き方」にあるのではなく、そもそも問題の認識や定義そのものが適当でない可能性が高いのです。ところがビジネスの日常では、このように「間違った問題をそのまま解いてしまうこと」やさらにそれに気付いていないままになってしまって真の問題が解決していない(ことにも気付かない)ことが往々にしてあるのです。
いくつか例を見てみましょう。例えば日常以下のような「依頼」が上司やお客様からくることがないでしょうか?
これらを「与えられた問題」とみた時に、解決するために2つのアプローチがあります(図2参照)。
1つ目は、図の下の人のように、与えられた問題の中にどっぷり浸かり、「与えられた問題をいかにうまく解くか?」に集中するというアプローチです。
例えば上記3つの問題でいえば、「新商品の説明をする」「担当者を変える」「情報システムを更新する」という与えられた問題はすべて「ありき」という前提で、いかにそれらの問題をうまく解くかを考えるということです。
新商品の説明であれば、どの機能に重点を置いて、どんな写真を使って、競合の商品との違いをいかにアピールするかを考える、あるいは情報システムの更新であれば、どんなシステムをどんな風に作り込んでどのようなユーザーに使ってもらうかを考え始めるといったことです。それでも悪くはないですが、時として「そもそも与えられた問題が適切でない」かもしれないことに気付くことができません。
これに対して、一つ上の視点で考えるメタ思考では、まず「問題そのものが妥当なのか?」について考え始めます。そもそもこの問題が解くべき問題なのか?を確認してからでなければ努力が無駄になり、望まれる結果につながらないことをまず考えるのです。
このために必要な問いかけが「なぜ?」という言葉です。つまりこの問題を解く目的をまず考えることを意味します。つまり。目的の確認=「なぜ?」というのは視点を一つ上げる、メタ思考のためのキーワードであるということです。
逆に言うと、なぜ以外の疑問詞、つまり「どこ」や「誰」や「いつ」といった問いかけはすべて問題を解くための第1のアプローチのための言葉であることを意味します。「なぜ?」だけが、メタの視点に上がる言葉なのです。
そう考えると、先の3つの問題は、「なぜ新商品の説明をするのか?」「なぜ担当者を変える必要があるのか?」「なぜ情報システムを更新する必要があるのか?」といった問いかけに変わります。
例えば1つ目の問題を例にとれば、この言葉の背景にある「上位目的」として考えられる仮説は、
1、現在使用中の自社製品の調子が悪くて買い替えを検討している
2、採用する気はないが、現在つきあっている競合会社をけん制したい
3、最近営業担当者が来訪しないので、来てもらうための口実が欲しい……
といったさまざまな理由が考えられます。
このような理由が依頼主(この場合は顧客)の「本心」であるならば、やるべきことは実は「新商品の説明」ではなく、「既存製品のバージョンアップ」かもしれないし、「休日に一緒にゴルフに行くこと」あるいは「上司を連れて雑談しに行くこと」かもしれないのです。このような場合には、先の1つ目のアプローチのように、「いかにうまく説明するか」に集中していては全く的外れであることが分かるでしょう。
他の2つの「問題」についても「上位目的」を考えることで、実は「解くべき問題」が他にあるかもしれないということを改めてメタ思考によって読者の皆さんが自分で考えてみて下さい。
要は「メタの視点」で考えることで、「そもそも解くべき問題」を定義し直すとともに、相手の真意に応えるためにさらに良い提案ができる可能性があるということです。「そもそもの問題」に気付くこと、そのために「一つ上の視点から」物事を眺めて見ることがメタ思考の考え方です。
日々の仕事の中でも「そもそもこの問題は適切なのか?」を問うべき場面は多々あるはずです。ぜひ日常生活に応用してみて下さい。
ビジネスコンサルタント。株式会社クニエ コンサルティングフェロー。東京大学工学部卒業。東芝を経てアーンスト&ヤング・コンサルティングに入社。製品開発、マーケティング、営業、生産等の領域の戦略策定、業務改革プランの策定・実行・定着化、プロジェクト管理を手がける。著書に『地頭力』(東洋経済新報社)などがある。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授