メーカーの中で、機械間、工程間、工場間がつながる、という進化には、どのような事業機会があるだろうか。機械間、工程間、工場間は、従来よりヒトを介したアナログな形でつながってきた。機械間、工程間は、工場内の作業員を通じてつながっていたし、工場間も連絡をとりあって連携してきた。つまり、この進化は、ヒトを介したアナログなつながりの、デジタルへの置き換えということである。そこで発生する最大の事業機会は、メーカーを顧客とした、つながりをデジタル化するためのBPR(Business Process Re-engineering)とツールの提供だ。
BPRでは、既存のメーカーがサービス提供者として競争力を発揮できる。そのため、メーカーが他メーカーに対してBPRを実施する、というビジネスが発生することになる。顧客であるメーカーは、既存資産、独自プロセスを持っており、その状態を理解した上で、BPRプランを策定する必要があるからだ。実際にRockwell Automationは、専門チームがものづくり企業のデジタル化支援を行っているが、その最初のステップで、レガシー資産の評価を実施し、顧客に合ったソリューションを提供している。従来より、顧客1社1社への丁寧な対応を続けてきた日本のものづくり企業にとって、顧客企業を診断し、One to OneのBPRを提供する、という事業は相性が良いのではないか。その場合、自らが汗をかいてデジタル化を成し遂げた経験が一番の糧になる。そのため、日本のメーカーは、まずは自らを最初の顧客としてBPRを進め、そこで蓄えたノウハウを他メーカーに横展開していくことが重要となる。
つまり、デジタル化ツールの提供は、メーカー、IT企業の双方にとって事業機会のある領域である。直近では、IoTプラットフォームにAmazonが参入したことが記憶に新しいが、ものづくりのノウハウがなくても参入可能な領域であり、レッドオーシャン化する可能性が高い。そのため、日本のメーカーが、デジタル化ツールの提供を事業機会として戦うには、もうけ所を明確化しておくことが最も重要となる。例えば、参入障壁の低い、IoTプラットフォーム領域は低価格として顧客を引き寄せるフックとし、アプリやデバイス販売でもうける、といった設計をしておく必要がある。
製造業は、テクノロジーの発展によって、今後も進化が続いていく。製造業の未来像は日に日に変わっていくだろう。製造業に限らずだが、不確実性の高い未来に対処するポリシーを持つことは、企業にとって非常に重要である。
未来に対処するポリシーは、自ら未来を創るリーダーと、未来を予測して流れに乗るフォロワーに大別できる。日本には、フォロワーで未来に対処しようとする企業が多いように思う。フォロワーの姿勢は一見低リスクに見えるが、不確実性の高い市場で未来を予測する最良の方法は、未来を自ら創るリーダーになることではないだろうか。そのためには、自社が考える未来を明確にし、一緒に未来を創る仲間を巻き込んでいくことが必要となる。
かつて、ものづくり大国であった日本が、主導的な立場でものづくりの未来を創っていくことを願っている。
佐藤大輔(Daisuke Sato)
ローランド・ベルガー シニアプロジェクトマネージャー
慶応義塾大学理工学部を卒業後、大手監査法人にて公認会計士 として会計監査、内部統制監査を多数経験した後、ローランド・ ベルガーに参画 自動車、大手商社、ファンドなどを中心に、多数クライアントに おいて成長戦略立案、海外事業戦略立案、企業価値評価、コスト 削減などのプロジェクト経験を有する。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授