「お客さまはどんな人で、何を求めているのかから全てが始まり、次にお客さまに提供している価値は何かを言語化し、最後に仕組みで販売を伸ばします。この3つが融合したときにビジネスは伸びていきます。収益を上げていくために、単に売ればいいとか、広告宣伝で買わせるということは成り立たなくなっています。マーケティングを通じて、お客さまとの絆を作ることが極めて重要です。心の絆が大切になります」(清水氏)
20世紀型の成功哲学は、対立の人事が自然発生的に起きる構造を無意識に作ってしまっている。例えば、「会社は分かってくれない」「評価してくれない」「見てくれていない」など、社員から見た企業への対立構造がある。一方、「なぜ社員は簡単に会社を辞めてしまうのか」「若手は最近やる気がない」など、会社から見た社員への対立構造もある。こうした対立の構造を、どのように打破すればよいのか。
「答えはシンプルです。相手がよい、悪いではなく、お互いに共通のゴールを目指すことにより、絆を作れます。具体的には、企業は社員の給料をいかに上げるかをゴールにするしかありません。これにより企業と社員が共通のゴールを目指すことができ、絆が生まれます。この話をすると企業の経営者からは懸念されますが、現状ではそうするしかありません」(清水氏)
経済産業省が2022年5月に公開した「未来人材ビジョン」では、日本の部長の平均年齢は43歳で年収1600万円と報告されている。ちなみにタイ王国の部長の平均年齢は32歳で年収2000万円、米国の部長の平均年齢は37歳で年収3000万円である。清水氏は、「日本では転職が賃金増加につながらない傾向が強く、日本ですし職人をするより米国で働く方が3倍稼げるのが現状です。だからこそ、会社には社員の給料を上げるというゴールが必要になります」と話す。
企業はどうすれば社員の給料を上げられるのか。清水氏は、「これだけの営業利益を上げれば、定着率を何パーセント以上にすればなど、目標を達成したらこれだけ給料が上がりますという明確なルールを定めることが必要です。こうした変化は日本ではなかなか受け入れられないかもしれませんが、やらなければならないギリギリのところに来ています。そのために経営層は、常に“社員(部下)はどんな人で、何を求めているか”を考え続けることが必要です。ポイントは、働く幸せをみんなで実感できるかどうかです」と話す。
20世紀型の成功哲学により、ある意味で働く幸せを失ってしまった。経済的な合理性を追求し、お金を稼ぐことに向かってしまい、仕事の現場でも、家庭でも、業務連絡しかしていない状況である。業務連絡だけで部下とコミュニケーションをしてきたために、部下と心がつながらなくなっている。残念ながら、多くの現代人は「分断のワナ」にはまっていると言わざるを得ない。
清水氏は、「結論としては、これからの最強の資産は“絆”です。意識しないと絆を作ることができない時代になっていますが、愛よりも心の傷、感謝よりも不足、幸福よりも正義、理解よりも批判など、絆を分断する7つのワナがあります。ワナなのでかからなければ分断することはありません。時間が限られているので、全てを説明できませんが、もし興味があれば書籍を読んでいただければと思います」と話し講演を終えた。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授