連載
» 2021年01月25日 07時07分 公開

サステナブルな移動需要喚起視点

地域に眠る観光資源を掘り起こし、それを種として人々の移動需要を喚起し、地域経済を活性化するコンセプトを紹介。

[山本和一,ITmedia]

 コロナ禍により移動が制限され、人々の消費が減少し、ビジネスや観光が止まった、それにより多種多様な企業に影響が生じ、その結果として地域経済にも大きなダメージが生じている。人々の消費を喚起し、企業活動を活発化させ、各地域の経済をどのように活性化するのか、かつそれをサステナブルにどのように達成するのか検討することが必要になっている。ここでは、地域に眠る観光資源を掘り起こし、それを種として人々の移動需要を喚起し、地域経済を活性化するコンセプトをご紹介したい。(図A参照)

サステナブルな移動需要喚起

シェア獲得競争ではなく、市場を広げる

 人々の消費行動が冷え込んでいる状況下において、今企業が行うべきはシェア獲得競争ではなく、市場拡大でありそのための需要創出である。シェア獲得競争は縮まったパイの奪い合いであり、価格競争を生じさせる可能性が有り、疲弊に輪をかけることになる、むしろ、需要を創出し、市場を大きくすることで、多様なプレイヤーがその果実を分け合える状態を作り出すべきである。

移動の利便+「行きたい」と思わせる提案

 需要創出となると、人々が出かけたくなることが必要。単に、“移動が便利”なだけでは需要は増えない。行きたくなる魅力的な体験が目的地にあること、それによって「ここに行ってみたいな」と思わせる提案が成されることが必要になる。

魅力的な体験を創り出す

 魅力的な体験・目的地とはどのように作り出すのか。ポイントは、地域に眠っている資産を掘り起こし、そこから体験を提供することだと考えている。各地域には観光資源となる多様な資産がある。それは自然風景・村落・史跡・産業・都市など、各地域に住んでいる方からすると当たり前の日常かもしれないが、他の地域の人々からすると新鮮な体験につながる資産であったりする。そして、その資産を料理して体験として提供することが必要である。

 人々はどんな体験をしたいのか、見たい・遊びたい・体を動かしたい・癒されたい・学びたい・人と交流したい・社会貢献したい、いろいろな体験ニーズがある。例えば、自然風景という資産であっても、例えば森林トレッキングコースとして“体を動かしたい・癒されたい”という体験を提供するのか、リゾート地のごみ問題を考えるツアーなどで“学びたい・社会貢献したい”という体験を提供するのか、いろいろな料理の仕方がある。

線・面で組み上げストーリーとしてつなげる

 単に1つの魅力的な体験が提供されているのみではなく、旅の出発から帰宅までの流れを組み上げること、それが一連のストーリーとなっていることが必要である。1つのテーマに沿って多様な体験が提供され、個々の目的地までの移動手段もつながり、移動過程そのもので体験できることなど、多様な組み上げ方がある。このようなストーリーを着地起点で組み上げること、それを人々に発信していくことが重要である。

地域にお金が落ちる

 多くの人々が体験を求めて多様な地域を訪れる、それを通じて着地側の地域にとっても得るものがあるべきである。つまり、訪れた人が消費したお金が地域の企業に行き渡り利益につながること、それが地域の雇用を生むと共に、地域経済の活性化につながる。

 例えば、人々が訪れると必然的に地域内で移動することになり、地域住民の需要だけでは採算が取れない地域の交通機関にとっては収益改善の機会であり、地域にとっても公共交通機関を維持する材料ともなる。

地域の資産のサステナブルな活用

 地域に人々を呼ぶための地域資産の活用は必要であるが、その資産を棄損するものであってはならない。オーバーツーリズムという言葉も聞こえてくるが、自然環境や史跡が保護・維持され、地域住民の生活や文化がリスペクトされることが必要である。それにより、地域の資産が維持され、多様なステークホルダー(訪問者、地域住民、地域の事業者)にとって嬉うれしい状態となり、地域経済の活性化にも寄与する、そのような状態が作り上げられる。

コロナを通じた山崩しの潮流

 コロナ禍を通じたわれわれの経験は、“密”を忌避する動きを生じさせると共に、オンラインミーティングやリモートワークなどにより旅に出掛けるタイミングを自由にした。それは、必ずしも人気の混雑する観光地に行くのではなく、新たな静かな目的地の開拓という“訪問先の山崩し”を生じさせ、必ずしも盆正月に出掛けるとも限らない“訪問タイミングの山崩し”も生じさせ得る。また、そのような山崩しを念頭においた提案機会も増えるであろうし、それはサステナブルという重要なキーワードを実現させるのに寄与する。

 昨年までインバウンドという言葉が世の中を賑わした。しかし国内観光需要におけるインバウンドの割合は小さい、ほとんどは日本人観光客の需要で構成されている。よって、このコンセプトを実現し国内観光需要を回復させることは地域経済活性化に資するものになる。また、サステナブルなコンセプトを実現しておくことで、再びインバウンドが戻ってきたときに、真の日本の良さを海外の方に感じて頂くと共に、オーバーツーリズムを回避することにもつながる。

 このコンセプト実現には、多様なプレイヤーが保有しているアセットや能力を組み合わせることが必要となる。その入り口として、自分達がどのような利用し得るアセットや能力を持っているのか棚卸から始め、実現のための協業作りを出来ないだろうか。そして、コロナ終息を見極めながら一部の地域で具体的な事例作りから始められないだろうか。

著者プロフィール

山本和一(Waichi Yamamoto)

慶應義塾大学理工学研究科修士課程修了後、ローランド・ベルガーに参画。自動車、航空などのモビリティー分野、及び製造業を中心に、幅広クライアントにおいて、ビジョン策定、事業戦略、新規事業戦略、戦略の実行支援など、多様なプロジェクト経験を有する。また、官公庁への支援も豊富であり、多様のステークホルダーを俯瞰した日本の産業競争力の強化へも取組む。


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