物流ビジネスにおけるインフラボーナスの重要性視点(2/2 ページ)

» 2021年05月17日 07時09分 公開
[小野塚征志ITmedia]
Roland Berger
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 物流サービスの提供を企図するなら、インフラボーナス期が終わろうとする段階の地域をターゲットとすることも一考である。日本の物流サービスは概して品質が高い。1人あたりのGDPが6000USD前後の地域であれば、高度な物流機能へのニーズが芽生えている。温度管理、定時到着、トレーサビリティー、返品処理などの機能を先駆的に提供することで、リーディングカンパニーの地位を築くことも有力な戦略オプションといえよう。

 ターゲットの選定にあたって留意すべきは、地域の範囲を的確に見極めることだ。例えば、ベトナム全体での1人あたりのGDPは3000USD弱だが、ホーチミン市に限ると6000USDを超える。つまり、物流インフラに対して戦略的な投資を実行するなら、ホーチミン市をはじめとする大都市圏を除いた地域をターゲットにすべきだ。逆に、ホーチミン市での事業展開を前提とするのなら、高度な物流機能の提供を考えた方がよい。1人あたりのGDPというと、国単位でのセグメンテーションを想定しがちだが、より狭い範囲でターゲットを見極めることも肝要というわけだ。

3、物流サービスを選択的に展開することの重要性

 大半の先進国は成熟期に該当する。従って、物流市場全体としては成長を見込みにくいが、伸び代のある物流サービスも存在する。

 例えば、宅配やデリバリーといったラストワンマイルの物流サービスは、GDPを超える成長率を記録している。インターネットの普及、ECの拡大に加えて、足元ではコロナ禍を背景とした巣ごもり需要の伸長が大きい。GDP全体で見れば、店舗での売上がラストワンマイルにシフトした結果といって差し支えないはずだ。日本では、3PLの成長も著しい。選択と集中を図ろうとする企業が増える中で、物流管理業務の外部化が進んだからだ。内製化されていたコストが3PLの売上にシフトしたのである。

 つまるところ、ラストワンマイルや3PLを軸に物流ビジネスを展開するのであれば、成熟期にある地域であっても十分に成長を見込めるということだ。一口に物流ビジネスといっても、対象とする地域の発展段階や事業環境を踏まえて、より適切なサービスを選択的に展開することが枢要といえよう。

著者プロフィール

小野塚 征志(Masashi Onozuka)

ローランド・ベルガー パートナー

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。ロジスティクス/サプライチェーン分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、成長戦略、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革、リスクマネジメントなどをはじめとする多様なコンサルティングサービスを展開。近著に『サプライウェブ−次世代の商流・物流プラットフォーム』(日経BP)、『ロジスティクス4.0−物流の創造的革新』(日本経済新聞出版社)など。


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