生活者起点で捉えるスマートシティ3.0〜スマートシティからサステナブルシティへ〜視点(2/2 ページ)

» 2020年07月27日 07時09分 公開
[田村誠一ITmedia]
Roland Berger
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 指標別に見ると、促進基盤の評点は総じて高く、適用分野の評点が低い。適用分野の中では、行政サービスやモビリティ領域が先行し、健康/医療、施設/住宅、教育分野に遅れが目立つ。構想設計やIT基盤導入、提供者起点の実証実験偏重では、都市機能の最適化はおぼつかない。今こそ実行6つの適用分野を有機的に連携させ、生活者起点の持続可能な都市づくりに真正面から向き合うべきだ。

戦略実行力にも大きなばらつき

 課題は、適用分野の包括度の低さにとどまらない。戦略は実行されなければ無意味だ。戦略実行力を、能力(導入責任の明確化)、範囲(旗艦プロジェクトの導入分野)、進度(旗艦プロジェクトの進捗)、管理(モニタリングの仕組み)の4項目で評価すると、SCSI上位15都市ですら、及第点は8都市にとどまった。(図A2参照)

 先行するのは、ウィーン、シンガポール、ロンドンの3都市。ウィーンはSmart City Vienna Agencyの指揮下、デジタル医療、スマート信号、デジタル行政など多岐にわたる旗艦プロジェクトが進行し、公共データのオープン化でも先行、各プロジェクトの個別進捗に加え、CO2削減といった長期目標の進捗も定量化している。

 シンガポールは、「スマート国家」構想にかかわるリー・シェンロン首相の発言(“シンガポールは世界で傑出した都市として、われわれの生活をより快適かつ持続可能なものとし、想像も超える未来を作り出す”)に全てが凝縮されている。

 ロンドンはCDO(最高デジタル責任者)を任命、スマート道路の導入や都市データエコシステムの構築に注力するとともに、各プロジェクトの進捗をオンラインでリアルタイムに公開している。

高まる民間企業への期待

 スマートシティ戦略の導入難易度は高い。都市ごとに目指す場所も道筋も異なり、先行事例の模倣は役に立たない。実現に多くの時間と資金を要するうえ、規制が行く手を妨げる。急激な変化は、市民や利害関係者の抵抗を引き起こす。小粒の実証実験でお茶を濁したくもなる。

 しかし、補助金頼みの実証実験に持続性はない。官民双方が生産年齢人口3割減社会に向き合い、都市を再創造する覚悟が必要だ。日本には、鉄道網の発達とともに形成された独自の都市OSが存在する。官の全体構想力、民の事業モデル構築力、両者をつなぐ鉄道事業者の都市OS創造力を総動員すれば、包括性と実行力を伴った、スマートステーションを中心とするサステナブルシティを実現できるはずだ。

著者プロフィール

田村誠一(Seiichi Tamura)

ローランド・ベルガー シニアパートナー

外資系コンサルティング会社において、各種戦略立案、及び、業界の枠を超えた新事業領域の創出と立上げを数多く手掛けた後、企業再生支援機構に転じ、自らの投融資先企業3社のハンズオン再生に取り組む。更に、JVCケンウッドの代表取締役副社長として、中期ビジョンの立案と遂行を主導、事業買収・売却を統括、日本電産の専務執行役員として、海外被買収事業のPMIと成長加速に取り組んだ後、ローランド・ベルガーに参画。


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