3.0の要素は以下の通りである。
―「自律した個人」の存在が大前提
―組織と個人、リーダーとフォロワーは対等
―リーダーの役割はいかに個々のメンバーとの「信頼」を築くか
―いかにして、一人ひとりのポテンシャルを引き出すか
―運命共同体ではないコミュニティー
―参画意志と力のあるものが、社内外を問わず集まる
―ネットワークにより情報はふんだんに得られる中で、社員はあえて、そこで働くことを選んでいる
支援者のリーダーシップとしては、サーバント・リーダーシップが有名である。しかし、逆に「サーバントに徹する」あまり、部下に投げたきり何もしない管理職層もいるが、それは勘違いである。リーダーである以上、時に組織の全面に立ってフォロワーを率いたり、一人ひとりに切り込んで行ったり、チームが泥沼の論争にならないように影響力を行使することは必要である。多くの学者やコンサルタントもこの型のリーダーシップの必要性をさまざまな呼称を用いて説明している。例えば、羊飼い型リーダーシップ、コミュニティーシップ、オープン・リーダーシップ、コラボレイティブ・リーダー、第五水準のリーダーシップなどである。
新しいリーダーシップにより企業を運営し成功を収め続けている多くの企業がある、例えば、HCLテクノロジーズ、ザ・リッツカールトン、SAS、サウスウエスト航空、資生堂、スターバックス、ホンダ、マッキンゼー・アンド・カンパニー、IDEO、セムコ社など。また、それは企業だけでなく、米国陸軍の変容や、日本の中で760年続いてきた永平寺にも認められるのである。
リーダーシップ2.0のチェンジ・リーダーは日本人にとって実は苦手なタイプであり、ごく限られた人以外は成功していない。一方、3.0のリーダーは、実は日本人にとっては得意な型である。
最後に、現在のグローバル環境でリーダーシップを発揮できる条件を持っているリーダー像である。
―宗教的な背景、人種的偏見がなく融通無碍
―メンバー全員に配慮し、我慢強く傾聴できる
―私利私欲に走ることなく無私に徹し、全体最適を優先することができる
よく指摘されるように日本人は、吸収力、変化対応力、多様性の受容があり、これだけ海外の文化を取り込みながら自国文化と融合し、文化、生活習慣を変化させながら生きてきた民族は希有である。また、真面目、親切、ていねい、他人・周囲への配慮、場の雰囲気を察することができる。
背景には、「お陰さまで」、「お天道様が見ている」、「世間様に申し訳ない」、「ご先祖様に顔向けができない」、「情けは人のためならず」という世界観、道徳観をもともと持っているということがある。「陰徳」(人が見ていないところで徳を積む)という言葉は、すでに日本でしか通用しないのではないだろうか。
また、茶道、華道、武道の中にも引き継がれている、互いを尊重し、気持ちよく場や時を共有する知恵や作法がある。
自然に対して人間が外部にいて、克服し、解明しようとしてきた西欧人にていして、人間も自然の一部であり(これは東洋思想)、自然を大切にし、その中で感謝しながら生活してきたのが日本人である。モノや資源を大切に無駄無く使おうという「もったいない」という発想が身に付いている。
これらの要素は、すべて3.0リーダーシップに求められる「自らの利益を追うのではなく、正しいことをする、地球に と ってよいことをする」という方向性と一致する。すなわち、2.0のリーダーが日本人には非常に少なかったが、3.0のリーダーには向いており、グローバル環境でリーダーシップを取るという観点において、日本にフォローの風が吹いているのである。
これらの 日本人の 美徳は今の若い人には忘れ去られている、という指摘もあるであろう。しかし、それは正しく教えておらず、練習していないからである。DNAの中に流れているものは、一旦教えられれば容易に受け入れ、身に付いて行くのである。ひとりでも多くのリーダー=自律した日本人、が育つことを願ってやまない。
早稲田大学法学部卒業。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院修士課程修了。NEC、マッキンゼー、ユニデン人事総務部長、アップル人事総務本部長を経て独立。その後、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授などを歴任し、現在は慶応義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、THS経営組織研究所代表社員。
専門は、人事・組織開発、キャリア・リーダーシップ開発。組織が活性化し、個人が元気によりよく生きるために、組織と個人の両面から支援している。
著書に『ラッキーな人の法則』(中経出版(同タイトルのDVDもレンタル中))、『ラッキーをつかみ取る技術』(光文社新書)、『組織に頼らず生きる』(平凡社新書)、『キャリア・コンピタンシー』(日本能率協会マネジメントセンター)などがある。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授