言葉で言いながら、行動が伴っていなければ部下は、上司の本心を鋭く見抜いている。マネジメントとは結局のところ「行動が全て」なのだ。
エグゼクティブの皆さんが活躍する際に発揮するマネジメント能力にスポットを当て、「いかなるときに、どのような力が求められるか」について明らかにしていく当連載。いまや上司の定番お悩みとなっているZ世代のマネジメントについて、人材研究所・代表取締役の曽和利光氏をゲストに迎え、当連載筆者の経営者JP代表・井上との対談の内容からお届けする第2回です。(2024年7月23日(火)開催「経営者力診断スペシャルトークライブ:上司としての悩みを一掃する!Z世代を育てる・人を動かす・転職で成功する、上司コミュニケーション術」)
マネジメントに携わる立場として、私は常に「言葉」と「行動」が一致しているかを自問しています。特に若い世代と向き合う中で、「上司の言葉がどう響くか」を真剣に捉える必要性を強く感じています。
例えば、「私は違うと思うんだけど、会社がこう判断したからさ」といった言い方。
共感しているように見えて、実は自分の責任から逃げているように聞こえてしまいます。部下からすれば、「そう思うなら、もっと上と戦ってほしい」と感じるでしょうし、何よりその姿勢が“かっこ悪い”のです。
本来なら、たとえ自分の意見が通らなかったとしても、方針が決まった以上、それをどう自分の言葉で部下に腹落ちさせ、前向きに動機づけられるかが上司の役目ですよね。中途半端に寄り添ったふりをしても、信頼は得られません。
私自身もこれまで、「◯◯が大事だ」と言葉で言いながら、行動が伴っていなかったことがあったかもしれないなぁと。部下は、上司の本心を鋭く見抜いています。だからこそ、マネジメントとは結局のところ「行動が全て」なのだと思っています。
時代は大きく変化しました。年功序列は崩れ、若手が責任あるポジションに就くことも珍しくなくなりました。それなのに、「私たちの頃はこんなシステムはなかった」「飛び込み営業を1日100件やっていた」などといった“昔話”をしてしまう上司もいます。これは完全に逆効果です。
彼らにとっては「だから何?」ですよね。もしかしたら、私たちの世代が変えるべきだった非効率な仕組みを放置した結果、そのツケをいま、若手が払わされているのかもしれません。
若手が言う「古臭い」とは、単なる反発ではなく、「本気で変えてくれていたら、もっと良くなっていたのに」という期待と失望が混ざったメッセージだと受け取っています。
今の若手メンバーは、論理的な思考やエビデンスを重視する傾向が強いです。もちろん、それは非常に大切な姿勢だと思います。ただし、まだ誰も挑戦していないような領域に、エビデンスは存在しません。そういった未踏の領域に「懸ける」覚悟こそが、上司に求められる資質です。
私も以前、部下の提案に「それって根拠あるの?」と問いすぎてしまったことがあります。でも本当は、問うべきは「これは懸けるに値する仮説か?」ということでした。
全てのファクトが揃うまで待っていたら、勝負には間に合いません。仮説に飛躍があったとしても、それを信じて一緒に前に進めるかどうか。そこに、マネジャーとしての本当の価値があるのではないでしょうか。
「かっこ悪い上司」の多くは、実は悪意を持っているわけではありません。むしろ、善意から来ているケースが大半です。「メンバーのために」と思って言った言葉や行動が、かえって部下には「逃げ」や「責任回避」に映ってしまうことがあるのです。
「地獄への道は善意で舗装されている」という言葉があります。私はこれを、マネジメントにおける重要な教訓として捉えています。どれだけ良かれと思っていても、行動がともなわなければ、その言葉は信頼につながりません。むしろ、逆効果になることすらあります。
ですから、「これはかっこ悪く聞こえていないか?」と常に自問したいですよね。そして、行動をもって語ることを、何よりも大切にしていくことが、令和における私たちマネジメントの最低限の責務だと、結構強く思うのです。
株式会社経営者JP 代表取締役社長・CEOに
早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。その後、現リクルートエグゼクティブエージェントのマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援などを提供している。2021年、経営人材度を客観指標で明らかにするオリジナルのアセスメント「経営者力診断」をリリース。また、著書には、『社長になる人の条件』『ずるいマネジメント』他。「日本経済新聞」「朝日新聞」「読売新聞」「産経新聞」「日経産業新聞」「週刊東洋経済」「週刊現代」「プレジデント」フジテレビ「ホンマでっか?!TV」「WBS」その他メディア出演多数。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授