テクノロジーの民主化時代に求められるAI活用と経営基盤の強化視点

XasSにより企業が先端テクノロジーを活用したサービスを短期間で導入し低コストで利用可能になることは、「テクノロジーの民主化」を意味する。ビジネス・サイクルは短期化し、競合においても同様の取り組みを進めることが可能になった今日、企業は勝ち組にも負け組にもなりうる。

» 2021年11月22日 07時04分 公開

1、テクノロジーの民主化が進む

 「モノ売り/保有」から「コト売り/サービス利用」への転換が語られるようになって久しいが、ITの領域においてもクラウド化の進展や利便性の高さにより、「コト売り/サービス利用」へのシフトは加速している。特にコロナ禍では、リモートワークの普及や消費行動のオンライン化など、企業を取り巻く外部環境が劇的に変化し、企業は変化に迅速に対応するために急速に「コト売り/サービス利用」方式の経営にシフトしている。そのため、IT各社はXaaS(X, Everything as a service)への転換・関連事業開発にしのぎを削っている。

 XasSにより企業が先端テクノロジーを活用したサービスを短期間で導入し低コストで利用可能になることは、「テクノロジーの民主化」を意味する。民主化により、テクノロジーによるビジネス・アップデート、すなわち、テクノロジーを活用した新規事業の創出やオペレーションの効率化・最適化は容易になる。結果として、ビジネス・サイクルは短期化し、競合においても同様の取り組みを進めることが可能になった今日、テクノロジーによるビジネス・アップデートの巧拙により、企業は勝ち組にも負け組にもなりうる時代となっている。

2、経営の難易度は上昇

 事業目的をかなえるために先端テクノロジーを導入する重要性は高まる中、経営者は以下のような悩みを抱える。

(1)全体の方向性・戦略が不足。部分最適・小粒な施策が進む

 経営の大号令のもと、新しいテクノロジー・XasSが利用されるものの、各部門・機能単位での縦割りでの利用などにより、取り組みにまとまりがない。

 全社において横串を通したビジネス・アップデートの方向性だしができていない。

(2)中長期目線の投資対効果が不明瞭で、思い切った投資も困難

 全体の方向性、達成したい姿が明確でなければ、「効果」をどう図るかは難しい。短期的な投資対効果ではなく、中長期目線の目指す姿にどう到達させるかを鑑みた投資意思決定が必要である。

(3)全体アーキテクチャ及び日々蓄積されるビッグ・データが  統制・監理できていない

 テクノロジーの導入には、自社が保有するデータ・アセットのフル活用がカギになる。しかしながら、新規テクノロジーを既存アセットにどのように組み合わせるかのアーキテクチャが描けていなかったり、分析に耐えうるデータを整備して分析・活用することに課題があったり、俯瞰的見地からの統制ができていないことが多い。

(4)テクノロジーの目利き・導入を推進できる人材の不足

 特に日本はIT部門をコストセンターとみなして外部委託が進み、社内にデジタル知見を十分蓄積できていなかった歴史がある。結果、事業とテクノロジー双方を理解し、ビジネス・アップデートをリードできる自社人材は非常に限定的である。

3、AI活用による経営基盤の強化

 図Aは、ガートナー社によるデータ活用の成熟度モデルである。データ分析のレベルは「何が起きたのか(記述的分析)」や「なぜそれが起きたのか(診断的分析)」から、AIによる「将来何が起きるのか(予測的分析)」「理想に近づくために何をすればよいか(処方的分析)」へと進化している。

Gartner社が提唱した成熟度モデル(Gartner Model)

 AIを有効活用することで、経営基盤の強化を図り前述の課題にアプローチしていくことができる。

 まず、テクノロジーの導入領域を、「協調領域」と「競争領域」に切り分けて全体の方向性の決定や投資判断を進めていくことが基本となる。

 「協調領域」では業界内でデータ整備・利活用における連携も図ることでデータの統制を行った上で、テクノロジーの導入によるオペレーションレベルでのコスト削減や標準化を図っていくことが望ましい。例えば経産省が、物流効率化に向けた運送事業者間のデータ連携・整備を推進しているのも、業界全体のコスト低減・AI活用の基盤確立に向けた取り組みである。

 一方、「競争領域」では、「いかに AIを活用して将来を予測し、何をすればよいかを定める」ことが重要になる。 AIによる予測的分析や、処方的分析が経営者のインサイトをより強化し、目指すべき方向性の定義、競争力強化に向けた正しい判断につなげていく。

 ローランド・ベルガーが主催する価値共創ネットワークの一員である、AIベンチャーのエクサウィザーズが提供する exaBaseでは、データ解析による特徴抽出など、さまざまなAIアルゴリズムを提供している。新たなデータを読み込んで将来を予測できるアプリケーションを企業はクイックに活用できるため、AI導入の実現ハードルを低下させることができる。

 なお、同社はAI導入による企業のビジネス・アップデートをリードしうるスキルをもつ人材のアセスメント・育成も行っており、そのような外部ツールを有効活用して自社人材を確保することもスピード感を持つ変革への近道である。

 テクノロジーの民主化における競争環境の激化を乗り切るには、上記の通りAIやデータ活用の進化のモデルを理解した上で、経営基盤を強化していくことが重要である。ローランド・ベルガーはさまざまな AIプロジェクトの推進、また、テクノロジーの導入支援における豊富なプロジェクト実績や知見を有している。

著者プロフィール

横山 浩実(Hiromi Yokoyama)

ローランド・ベルガー プリンシパル

東京大学大学院工学系研究科修了。米系会計系コンサルティングファーム、欧系ソフトウェア会社等を経て現職。内閣官房IT総合戦略室にてIT戦略調整官としても勤務。公共業界、IT分野を中心に、デジタル事業戦略、標準化を通じたコスト・ビジネスモデル刷新、業務プロセス改革及びシステム導入など多岐にわたるコンサルティングプロジェクトに従事。


著者プロフィール

石毛 陽子(Yoko Ishige)

ローランド・ベルガー シニアプロジェクトマネージャー

東京大学文学部卒業後、日系投資銀行を経てローランド・ベルガーに参画し、東京及びシンガポールにて日本企業のアジア展開を支援。人材系ITベンチャーの役員を経て再参画。DX、全社戦略、組織改革やM&Aなど、幅広いプロジェクトを手掛ける。


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