そこで、なぜパワーショベルやブルドーザーが必要なのかを調べてみた。答えは、庭を日本庭園のようにしたかったので、ホームセンターや造園会社に相談してみたが、満足できる回答が得られなかったため、パワーショベルやブルドーザーを持っている会社ならできるのではないかと考えたためだった。
これによりこのリフォーム会社は、それまで見えていなかった「ガーデニング」という予期せぬ顧客の要望を発見した。ガーデニングを会社の新たなサービスとして提供を開始したところ、一気に業績を回復することができた。
この業績回復は、経営者や管理職のアイデアや発想、ひらめきなどではなく、見えていなかった顧客のニーズ、思ってもいなかった顧客の情報から発見したものである。顧客は悩みを打ち明けていることが多いが、自社の商品を売り込むことで頭がいっぱいのため、顧客の悩みを聞いていないのが実情である。
「予期せぬ成功、予期せぬ失敗、予期せぬ要望、予期せぬ出来事を、日報、週報、月報のような形で提出させることにより、顧客のニーズを聞く文化が醸成され、情報が蓄積されることにより、あらたなビジネスを創出しやすい環境を実現できる」(山下氏)
「基本と原則に反するものは、例外なく破たんする」――ピーター・ドラッカー
この言葉が意味するのは、当たり前のことを当たり前にやらなければ、100パーセント失敗するということである。パンの材料を用意するので、おいしいパンを作ってほしいと言われても、パン屋よりおいしいパンを作ることは困難である。いくら材料がそろっても、おいしいパンを作る原理、原則を知らないためである。
マネジメントや経営も同じで、同じ材料(資源)を使っても、おいしい作り方(マネジメント)を知っている場合とそうでない場合では、出来上がり(成果)がまったく違ってしまう。また、同じ斧(労力)を使っても、切れない斧(ムダ)では、目標を達成する速さ(売上)が違う。学ぶ組織と学ばない組織はここで差が出る。
もっとも重要なのは、「何のための事業か」「誰のための事業か」「お客さまが得たいのは何か」「お客さまの良い変化とは何か」「どう進めていくか」の5つを問うことである。どう進めていくかは、具体的なゴールを見据えた計画を立て、その計画に基づき、顧客の良い変化とは何かを考え、その計画が適切かを考えながら実行することだ。
「顧客にとって現実でありながら、わが社に見えていないものは何か?」――ピーター・ドラッカー
例えばある芳香剤のメーカーは、取引先から「透明のパッケージが欲しい」との要望を受けた。芳香剤の機能は、「臭いにおいを消す」「いいにおいを出す」の2つであり、芳香剤のパッケージは何色でも関係ないと考えていた。そのため、当初は特注に難色を示していたが、要望どおり製造して販売したところ売り上げが約13倍に伸びた。
「調べてみるとデザイン会社やホテルなどに、シンプルなデザインの芳香剤が求められていた。透明の芳香剤が顧客の現実でありながら、メーカーや販売店に見えていなかったのである。自分たちの事業が、誰のための事業なのかを明確にしておくことが必要。顧客を明確にすることで、何のための事業かも明確にできる」(山下氏)
「ミッションからスタートしなければならない。ミッションを失えば、われわれは、迷い、資源を浪費する」――ピーター・ドラッカー
社会は大きく変化している、いろいろな会社がこれまでにない明日を実現するために模索している。明日を実現するための第1歩が、「○○」を「××」することである。
最後に山下氏は「あなたの会社は、"○○"と"××"にどのような言葉が入るだろうか。正解があるわけではないが、ドラッカーは"昨日"を"廃棄"することだと語っている。新しい未来を築くには、過去の成功体験をすべて忘れ去ることである。過去の成功への執着を捨てることで、新たな価値を生み出すことができる。それらの仕事を実践する結果として、将来にわたって繁栄する経営基盤となる最強の経営チームになる」と締めくくった。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授