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» 2015年02月19日 08時00分 公開

ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術:「“具体的”であることだけが本当に良いのか?」――「具体と抽象の往復」で考える (2/2)

[細谷功,ITmedia]
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仕事の自由度

 仕事を頼んだり頼まれたりするときにもこの「具体と抽象」という視点を持つことは非常に重要です。例えば仕事を頼まれる場合にも、具体的な依頼を好む人と、むしろ抽象的な依頼の方を好む人がいます。

 「なんか斬新な企画考えてよ」と言われた場合、具体的な依頼を好む人はこれを不快に感じて、「それじゃよく分かりません。どうして私にどうして欲しいんですか?」という反応になります。対して抽象的な依頼を好む人は「好きなようにやっていいんですね!?」と目を輝かせることになります(「丸投げ」をポジティブにとらえるかネガティブにとらえるかの違いです)。

 ここでの「具体と抽象」というのは「自由度の違い」を意味します。つまり具体的であるというのはよくも悪くも自由度が低いために、解釈が固定されますが、抽象的であると解釈の自由度が大きくなり、これを愉快に思う人と不快に思う人が出てくるのです。具体レベルの指示だけでは「言われたことしたやらない」部下が育ち、抽象レベルの指示だけでは、誤解が生じやすくなったり具体的な行動のフォローが甘くなったりしてしまいます。

 何気ない職場の上司と部下の間での指示の内容にも、さまざまな抽象度(自由度)のものが存在していますが、相手の思考によって「具体か抽象か」をうまく使い分けることが、被依頼者のモチベーションを上げて仕事をスムーズに進めるためのコツということにもなるでしょう。

理想か現実か?

 組織の中ではさまざまな目標が設定されます。また個人のキャリアプランにもいろいろな目標がありますが、ここにも「具体と抽象」という視点が重要です。例えば、

  • 「教育を通じて社会貢献をしたい」
  • 「算数のスマホアプリを今月は最低20本は売り上げたい」

という2つの目標があったとします。これらのうちどちらが「志が高い」と思えるでしょうか? 当然前者でしょう。ではどちらが実現可能性が高いでしょうか? これは逆に後者ということになります。つまり、具体的な目標は現実性や実現性も高い反面で、短期的で卑近なものとなりがちです。反面抽象度の高い目標というのは長期的で大きな理想を語るには適当ですが、漠とした実現性の乏しいものになりがちです。

 したがって、これらは片方だけでなく、両者を有機的にうまくつなげた目標設定が有効ということになります。つまり、具体と抽象はセットで語られるべきものだということなのです。

 経営者が「崇高なビジョン」を語るのを見て、現場の従業員が「それより先に経費精算ソフトのバグをなんとかしてくれよ」などという構図は組織でよくある話ですが、それも「具体を見ている人」と「抽象を見ている人」との間のコミュニケーションギャップと言えます。

具体と抽象の往復が重要

 ここまで述べてきたように、ビジネスの場面で重要なのは、具体的な事象を見るだけでなく、これらを抽象化した上位概念もセットで考えることです。どちらか一方ではうまくいかず、「具体と抽象の往復運動」をすることが重要なのです。

 最後にもう一つ、「具体と抽象」を語る上で注意すべきは、抽象度の高い話は「分かる人にしか分からない」ということです。つまり具体の世界と抽象の世界の関係は「マジックミラー」のようになっており、具体の世界のみの住人には抽象の世界のことが見えないのです。そのことでよく前述のケースのようなコミュニケーションの行き違いが起こります。

 重要なことは、なんらかの抽象レベルの理解が存在していることが共有されることです。それによって上記のコミュニケーションギャップも完全に解決はできなくても、両者の理解を格段に向上させることが可能となるでしょう。

著者プロフィール:細谷 功(ほそや いさお)

ビジネスコンサルタント。株式会社クニエ コンサルティングフェロー。東京大学工学部卒業。東芝を経てアーンスト&ヤング・コンサルティングに入社。製品開発、マーケティング、営業、生産等の領域の戦略策定、業務改革プランの策定・実行・定着化、プロジェクト管理を手がける。著書に『地頭力』(東洋経済新報社)などがある。


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