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» 2015年04月02日 08時00分 公開

ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術:方針浸透のカギを握るマネジメント職――真意を伝えるために「チーム」の力を生かす (2/2)

[水迫洋子,ITmedia]
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方針のもとに「チーム」になったヤマトグループの経営幹部

 真意を咀嚼し、「自分の言葉」にするとは、実際にはどのようなことでしょうか。「腹に落ちると一気に動く」という現場実行力を持つヤマトグループの例を見てみましょう。

 一昨年、ヤマトグループのある事業会社で、大きな事業方針の転換がありました。その会社のトップは「今年度からはこっちの方向に向かうぞ」と自分が大方針を語るだけでは、全国の現場に真意までは伝わらないだろうことをよく理解しています。そこで、大方針が組織の隅々にまで行きわたり、メンバー自身のものになっていくためのプロセスをつくり込んでいきました。

 まず、経営幹部層の共通認識づくりから始めました。これは、非常に重要でありながら、意外と見落とされているポイントです。浸透のプロセスにしっかりと時間をかけることは経営幹部層も例外にしてはならないのです。

 経営幹部自身が、方針をどのように理解し解釈しているか、時間をかけて自分の言葉で語り合いました。キーワードとしては全員が同じような言葉を使っていたとしても、微妙な、しかし見過ごせないニュアンスの違いや解釈の違いが経営幹部間でも存在することが議論の中で明らかになりました。この「違い」を埋めるための議論がさらに展開され、時に意見が激しく対立することもありましたが、最終的には皆で議論を尽くし、共通認識の形成に至ることができました。

 経営幹部層によるこのような認識共有のプロセスは、通常の経営会議のような場では、自由闊達な議論ができないことから、この会社では、オフサイトミーティング(=気楽にまじめな話をする場)のスタイルを活用しています。

現場も「チーム」で話し合って方針を自分のものにする

 次は、現場社員への展開です。この段階では、経営幹部チームの参謀役といえるメンバーを巻き込んで方針の真意を共有していきます。この参謀役の存在は重要です。経営幹部層が各現場で方針を伝えるとき、この参謀役が現場の言葉で分わかりやすく補足してくれたり、背景にある考え方を説明してくれたりするからです。経営幹部層と現場の社員では、どうしても見えている風景や情報量、問題意識のアンテナの張り方が違いますから、両方の立場を理解できる翻訳者の役割が効果的なのです。

 経営幹部チームからの方針を受けて、現場では経営幹部チームが実施したような、「認識共有のためのプロセス」を同じような方法でくり返し展開していくことが必要です。

 方針は一度説明しただけでは、現場にその真意や本気度が伝わるものではありません。質問も疑問も起こらない一方通行のコミュニケーションでは、「伝えた」という行為はあっても「伝わる」というには程遠いでしょう。

 経営幹部チームでさえ何度も対話を重ねてようやく腹に落ちるくらいですから、会社の全体像や自分の業務以外の情報が入りにくい現場のメンバーにとっては、なおのこと理解には時間がかかります。

 それだけに、経営幹部チームは自分たちのときと同じように時間をかけて、現場のリーダーやメンバーに対しても「自分の頭で考えて、チームで方針を自分のものにする」ための対話の機会を、参謀役と一緒につくっていくのです。この機会をつくり、環境をつくる仕事こそ、マネジメント職にしかできない重要な役割なのです。

 こうした「伝える」ための手間暇ひまをかけることで、社員側でも情報に対して感度が鋭くなり、考える力がついてきます。そうすると、自然と方針と自分の業務を結びつけて考える習慣が生まれ、日常業務の場面でも「(方針は具体的な業務に即して言うと)こういうことだよね」といったやりとりが気軽に生まれるようになります。そういう状況になってはじめて、方針は生きて動き始めるのです。

 方針の目的やその先にめざすものや背景までがしっかりと社員にまで伝わり、組織に浸透するまでのプロセスには、確かに時間と手間ひまがかかります。しかし、急がば回れで、結果的に実行フェーズになると、ものすごい力を発揮するものなのです。

著者プロフィール:水迫洋子(みずさこ ようこ)

(株)スコラ・コンサルト代表  / プロセスデザイナー

東京都出身。青山学院大学院社会情報学部ヒューマンイノベーション学科修士課程修了。

野村證券を経て、東京電力の新規事業としての子会社3社の事業会社の立ち上げ、事業拡大の経験の中、企業変革の重要性を感じ、組織風土改革コンサルティングの草分けとして、

プロセスデザインオフサイトミーティングのアプローチを使ってコミュニケーションとチームワークのレベルを上げ、それを基盤に経営課題の解決を行なうスコラ・コンサルトのプロセスデザイナーに。2008年より現職。

2011年からスコラ・コンサルトのヤマトグループに対する支援がスタート。「役員チームづくり」「マネジメント機能強化」「全員経営を推進する対話の展開支援」においてPJチームでかかわる。

その他、商社、金融、サービス業、自動車、製薬、医療機器、精密機械、飲料、ファッション等のメーカー、IT企業等の大企業を中心とした幅広い業種分野の組織風土改革コンサルティングに豊富な実績をもつ。

「経営チームづくり」「トップ・ミドル層のマネジメント変革」「変革リーダー育成」「経営と現場をつなぐ戦略的人事部門」への役割転換の提案・支援を強みとする。


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