決断するための本――戦略的に考えるための50のモデル海外ベストセラーに学ぶ、もう1つのビジネス視点(4/4 ページ)

» 2012年06月06日 08時00分 公開
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自分以外のものをより理解するためのモデル

 決定に至るには、多くの場合、自分以外のものの力を考慮しなければなりません。自分以外のものを理解する方法は次の通りです。

自分以外を理解するモデルとは?

スイスチーズモデル

 このモデルは、小さなミスが災難に繋がる様を説明したものです。穴のあいたチーズのスライスを思い浮かべてください。それぞれのスライスには違う場所に穴が空いています。そのスライスを何枚か重ねてください。この概念モデルでは、ミスを犯した場合、そのミスは一枚目のチーズの穴を通りますが、次のチーズの穴は同じ場所に空いていないため、ミスはそこから先には広がりません。そのため、そのミスによって大きなダメージを被らずにすみます。しかし、もしスライスに空いた穴がすべて揃ってしまうと、ミスは最後のチーズまで広がり、結果は最悪なものになるでしょう。

スモール・ワールド・モデル

 心理学者のスタンレー・ミルグラムは、人間は全員、最高で6次の隔たりによってつながっていると主張しました。例えば、女優のフリーダ・ピントーは、不滅の名女優グレタ・ガルボと次のように繋がっています。ピントーは2010年にロジャー・アシュトン=グリフィスと映画で共演しました。グリフィスは1986年にビル・フレイザーと共演したことがあり、フレイザーはメルヴィン・ダグラスと1964年に共演しました。そして、ダグラスは1932年にグレタ・ガルボと共演したことがあるのです。

パレートの法則

 1世紀以上前、経済学者のヴィルフレド・パレートは、イタリアの裕福な人間の20%が、イタリア全土の富の80%を保有していることに気が付きました。この80対20の割合は至る所で見ることができます。例えば、労働者の20%によって、労働の80%が行われており、車を運転する人の20%によって自動車事故の80%が引き起こされています。また、バーの客20%によって、売られているアルコール飲料の80%が消費されています。このようにパレートの法則は多くの場面で見ることができます。ただし、全ての状況に当てはまるわけではないので、惑わされないようにしましょう。

モンテカルロ・シミュレーション

 サイコロを転がせば、サイコロの性質上、必ず1から6の間のどれかが出ます。ギャンブルをする時は、どの目が出るか前もって知ることは絶対にできません。モンテカルロ・シミュレーションは、乱数から確立、つまり「天の導き」を求めようとするものです。しかし、ランダムな結果をピタリと予測しようとしても、うまくいくわけがありません。モンテカルロ・シミュレーションは、私たちに、モデルは現実に近いものを求めることはできても、現実を明確に求めることはできないことを教えてくれているのです。

ブラックスワン・モデル

 動物学者は長い間、白鳥には白いものしかいないと考えてきました。しかし、衝撃的なことに、17世紀に黒鳥が発見されました。随筆家であるナシム・ニコラス・タレブは、このような概念上のジレンマを「ブラック・スワン(黒鳥理論)」と名付けました。ブラック・スワンとは、過去(白鳥しか発見されていなかった)から判断し、未来(白鳥には白いものしかいないはずなのに、黒鳥が発見される)を誤って予測しようとするという意味です。予期せぬものを予期してください。過去が未来の形を決めるなどと思いこんではいけません。

ブラックボックス・モデル

 世界がますます複雑になっていくと、世界を理解することはさらに難しくなります。このような状態を「ブラックボックス」といいます。つまり、一般人には理解が難しい、最新のテクノロジーなどの「複雑な構成要素」が溢れている状態です。この状態が続くと、人々が理解はしていないけれど真実だと信じる情報の量が増えて行きます。将来、他人に影響を与えたいと思っている人は、「根拠」を述べるよりも「イメージ」や「感情」を使って人を説得するようになるでしょう。

囚人のジレンマ

 これは有名なゲーム理論における難しい問題です。警察が共犯だと思われる2人の容疑者を捕え、話し合いができないよう2人を別々の牢屋に入れました。そして、2人それぞれに次のような司法取引を提案しました。

 (1)もしどちらか1人が2人共有罪だと白状し、残りの1人が黙秘した場合、自白した者は釈放し、黙秘した者は10年の刑に処す。

 (2)2人とも黙秘した場合は、2人とも2年の刑に処す

 (3)2人とも白状した場合、2人とも5年の刑に処す。

 もしあなたが2人の容疑者のうちの1人だったら、どうすることが一番よい作戦だと思いますか? 2人の人間を対抗させるこのジレンマゲームを200回以上繰り返した調査結果では、一番良い選択肢は、相手が最初に自分を守ってくれると信じることだと示されました。その次は、相手の前回の動きに合わせることです。もし自分が相手の動きを真似始めれば、相手も真似るようになります。

 ここでは意思決定に必要な外側に存在するものについて説明しています。つまり精度を高めるためには、外部の何らかの力にも注目し順応する必要があるということです。特に危機状況をいち早く察知するためにはこのモデルが大変有効であることがわかります。まずは自分自身の思い込みを客観的に見据え、ここにあるモデルを通じて可能な限り算段してみることが重要なのではないでしょうか。

著者紹介

ジャーナリストのミカエル・クロゲラスとコミュニケーションの専門家であるローマン・チャペラーは、世界中の人と企業が、重要な選択をし、戦略的な方法で考えるために取り入れている最も有名な意思決定モデルを50個紹介しています。よく考えられた本書は、戦略の立て方、数多くの選択肢の中から選ぶ方法、そして合理的な意思決定を下す方法を説明しています。また、それぞれの意思決定モデルの説明には分かりやすい絵が添えられています。紹介されている50個のモデルは1つずつ深く掘り下げられているわけではなく、さらに、内容のほとんどは著者以外の人が考えたモデルの概要を説明したものになっていますが、概念化と意思決定について書かれた役に立つ興味深い本書をお薦めします。


プロフィール:鬼塚俊宏ストラテジィエレメント社長

鬼塚俊宏氏

経営コンサルタント(ビジネスモデルコンサルタント・セールスコピーライター)。経営コンサルタントとして、上場企業から個人プロフェッショナルまで、420社以上(1400案件以上)の企業経営を支援。特に集客モデルの構築とビジネスモデルプロデュースを得意とする。またセールスコピーライターという肩書も持ち、そのライティングスキルを生かしたマーケティング施策は、多くの企業を「高収益企業」へと変貌させてきた。


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