上司が部下に指示を出すときは次の4つを明確にすると指示が的確に伝わります。
(1)「期限」を示す
いつまでにという希望を伝えた上で、期限の少し前に進捗状況の確認を忘れないように。
(2)「優先順位」を示す
部下の既に持っている仕事を比べ、優先順位をつけて、「任せる仕事」の時間枠を取ること。この中には価値の順位も含みます。例えばライフネット生命のウェブサイトを制作した時は、担当者にウェブサイトを作るうえで、私が重視しているポイントを序列をつけて(1)使いやすさ、(2)分かりやすさ、(3)SEO(検索エンジン最適化)対策、と伝えました。この時に(1)と(2)と(3)と並列して列挙すると部下は迷ってしまいます。
(3)「目的・背景」を示す
例えばプレゼン資料作成に関するデータを見つけてほしい場合、「プレゼンの目的は何か」、「どういう資料を作ろうとしているのか」、「どこに提出する資料なのか」などの背景を説明しないと部下は適切なデータを見つけることができません。
(4)「レベル」を示す
「完成品」を望んでいるのか「半製品」を望んでいるのか、仕事のレベル(質のレベル)を明確にします。仕事を任せるときは、「時間も、部下の能力も、有限である」ことを忘れてはいけません。
「権限の範囲が分かる」ということは、「誰が、どこまで責任を取るのか」が分かることと同義です。部下に仕事を任せるときには「権限と責任を一致させる」ことを忘れてはいけません。「任せる」ことは同時に「責任を持たせること」であり、私は「部下を育てる基本は、責任を持たせること」だと考えています。
日本の企業では、例えば「バツグンの営業成績を残した社員が、そのまま長のポストに就く」ことが、よく見られます。現場に出て、営業の仕事を続けつつ、管理職になる。いわゆる「プレーイング・マネジャー(業務を受け持つ管理職)」です。しかし私は「プレーヤーとしての能力」と「マネジャーとしての能力」は全く異なると思います。「プレーヤー」は自分の仕事をひたすら高め、80点を取れるように努力する能力が要求され、「マネジャー」は部下全員に合格点(60点)を取らせ、多少の不出来には目をつぶるという能力が重視されるからです。
つまり一番の近道はプレーヤーとマネージャーは違うということを自覚することです。もしプレーヤーとしても優秀であった人が、マネジャーになっても優秀だったとしたら、それは「プレーヤーとしての自分を捨て、マネジャーの能力を身に付けた」「プレーイング・マネジャーであることをやめ、マネジャーに専念した」からです。「そんなことを言われても、会社に両方期待されている」というマネジャーは、まずは「部下の仕事については、60点で満足する」習慣を意識してみると良いと思います。
いくつか著書の中から抜粋しましたが、まだまだ私は日本生命時代にお世話になった、元専務の森口さんにはかないません。はちゃめちゃな上司だったのですが、「人間、やろうと思えば何でもできるものだ」ということを教わった気がします。仕事がとてもでき、「上司としての感覚」(権限の感覚や秩序の感覚)に長けていました。「課長会」に出席した「課長代理」が何かを発言した時の話です。すると森口さんは「それは、課長の意見か、お前個人の意見か、どっちや。課長の意見をきちんと聞いてくるか、"お前に一任する"という委任状がないかぎり、課長会で発言する意味はない。お前個人の意見なら、黙っていろ!」と一喝したのです(これは権限の感覚として正しい)。他にもエピソードには事欠かず、マネジメントの多くを大先輩から学びました。
ライフネット生命には私と「親と子ぐらい離れた、さまざまなバックグラウンドを持つユニークな社員」が沢山います。私が彼らに仕事を任せているのは、森口さんのように、「誰に、何を、どのように任せれば組織が動くのか」ということを柔軟に考えているからです。ライフネット生命を「100年後に世界一の保険会社」にするために「性別、年齢、国籍を超え、さまざまなひと達の意見に耳を傾けて、60代の私ではカバーできない「多様性(ダイバーシティ)」を確保しグローバル社会にスピーディに対応して、少しでも早く目標に近づきたいと考えています。
理想のマネジャー像に近づけない、当たり前なのになかなかできない「マネジメント論」のジレンマに頭を悩まされている方に「人をどのように使い」「どのように任せて」「どのように組み合わせて」いけば強いチームが出来上がるのか、ということを考える際のヒントとして本書を手に取っていただけると幸いです。
ライフネット生命保険株式会社 代表取締役会長兼CEO
1948年三重県生まれ。京都大学を卒業後、1972年に日本生命保険相互会社に入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当。生命保険協会の初代財務企画専門委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、同社を退職。2006年に準備会社を設立し代表取締役社長に就任、2008年の生命保険業免許取得に伴い、ライフネット生命保険株式会社に商号変更。2013年6月より現職。
主な著書に、「生命保険入門 新版」(岩波書店)、「直球勝負の会社」(ダイヤモンド社)、「部下をもったら必ず読む『任せ方』の教科書」(角川書店)、「『思考軸』をつくれ」(英治出版)、「百年たっても後悔しない仕事のやり方」(ダイヤモンド社)など。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授