それでは、あなたは海外でも通用する「自分の売りは何か」について真剣に考えたことがあるだろうか? もちろん、英語や中国語などの語学ができれば、仕事のチャンスは広がるだろう。しかし、インド人や中国人と比べたときの語学以外の「売り」は何かについて考えていくとどうだろう。例えば、香港の外資系金融機関で働く20代の日本人に聞くと、日本企業向けの営業の募集はあるが、台湾人や韓国人で日本語も英語も話せる人材との競争になるので、自分の「売り」を明確にしていないと採用時の競争に勝てないという。
「自分の売り」はいくつかの要素の掛け算で決まる。実際、ひとつのことを極めて専門家になる道は競争が激しく、他人との差も出しにくい。だからこそ、語学とそれ以外の付加価値を掛け合わせることが重要になる。
私がこうした話をすると「いや、自分にはそんな強みはありません」と言う人も多い。そういう方たちは通知表で言えば「オール5」でないとダメだ、と思っているようだ。しかし、成績3か4程度の「人並みかそれよりちょっと上」というものでも、その項目を3つ掛け合わせることで、自分の売りにできる。
次に必要なのは、「現地での商慣習を理解する」というスキルだ。中国や華僑との付き合いを例にあげると、「関係(人脈)」と「見える化」の2つは大事な要素だ。
まず、「関係」からみていこう。共産党一党独裁の中国をはじめ、アジアには政情がビジネスに大きな影響を与える国は多い。こうした国で仕事をする場合は、政府が発表する経済政策などはしっかりフォローし、信用できる取引先をつくって情報を収集する必要がある。中国で長くビジネスをするA氏は、「何かがあってから情報を収集しようとしても遅いので、関連分野の政府の担当者とはふだんから付き合いをもっておくことが必要」と言う。
とはいえ、あちこちの関係の政府担当者と関係を保つことも大変だ。A氏は、「そうした場合は、"キーステーション"をつくっておくとよい」と言う。特に懇意の中国人をつくり、ゴルフをしたり旅行をしたりで関係をつくっておく。"キーステーション"の人に「友達でこういう役所の人がいたら紹介してくれませんか?」と頼むと、自分のネットワークを使って適切な人を紹介してくれるという訳だ。
2つめは、「見える化」だ。出張やビジネスのやりとりでアジアの現地法人や委託先の社員を管理する側からよく出る質問は、「彼らをどうやってマネジメントすればいいのか?」という質問だ。こちらの指示通りに動いてくれない、納期に間に合わないなどさまざまな問題を抱えているのである。
この問題解決のカギが「見える化」なのだ。中国で起業した20代の日本人経営者は社員が毎日のように遅刻するので、「遅刻をするな」と何度も注意したものの一向に直らない。そこで、労働契約書に「遅刻したら○元の罰金を徴収する」という文言を明記するとピタリと遅刻しなくなったそうだ。以後、その会社ではどんな細かい業務でも必ず書面にして残すことを心掛けている。
「あまり細かくルールをつくるとモチベーションが下がるのでは」とも思われるが、中国では、管理には公正な原理原則が必要であり、かつ権限ある人が定めたルールは守る、という意識があるので、透明性を高め、文書化したかたちで契約書や社内規則をつくっておくことは有効だという。
今後ビジネスリーダーにとって、アジアは自分をグローバル化して鍛えるために最適な場所という視点で日々の業務や情報に接してほしい。今までと違った発見や気づきがあるはずだ。
株式会社九門崇事務所 代表取締役社長、亜細亜大学国際関係学部 特任教授、
東京大学 特任研究員。
慶應義塾大学法学部卒、 ミシガン大学公共政策大学院修士。
日本貿易振興機構(ジェトロ)にて、清華大学経済管理学院で経営学などの研修を経て、中国を中心にアジア新興国の経済・企業戦略等に関するリサーチに従事。
その後独立し、アジア発グローバルリーダー育成をテーマにコンサルティング・研修・講演を実施。中国で日中の大学生を対象にしたキャリアのワークショップを行うなどグローバル人材の共創に向けた取り組みも積極的に行っている。東京大学では主にインド・中国ビジネスのケーススタディに関連した講義を行う。
「アジア・ソサエティ(ジョンD.ロックフェラー氏が設立した国際的NPO)」の2011年「アジア21 ヤングリーダーズサミット」日本代表に選出。アジア30カ国、150名のリーダーとインドでのサミットに参加。
著書に『アジアで働く』(英治出版=単著)、『中国進出企業の人材活用と人事戦略』(ジェトロ=共著)、『中国ビジネスのリスクマネジメント』(ジェトロ=共著)等9冊がある。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授