よく勉強しているのに仕事はデキない!?――気の毒な人にならないための「報・連・相」ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

» 2013年11月28日 08時00分 公開
[前川孝雄,ITmedia]
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 具体的な戦略的「報・連・相」のテクニックは、拙著を読んでいただくとして、その効用について2つほど言及しておきたい。

 1つ目は、組織を束ね、周りの人たちに協力者を増やし、ひとりではできないより大きな仕事ができるようになること。仕事がひとりで自己完結できるのは、せいぜい20代の若手の間だけのこと。リーダーの立場になればなるほど、周りの人達の力を縦横無尽に使えなければ仕事が成り立たない。

 不朽のマネジメント本の名著『経営者の役割』を著したチェスター・バーナードは、その中でこう述べている。

 「組織の構造、広さ、範囲は、ほとんどまったく伝達技術によって決定されるから、組織の理論をつきつめていけば、伝達が中心的地位を占めることとなる(中略)組織内の多くの専門化は、本質的には伝達の必要のために生じ、またそのために維持されているのである」

 「報・連・相」の目的は伝達そのもの。これを駆使できるリーダーが組織を動かすことができるのである。ちなみにリーダーシップとは役職によって体得できるものではない。役職や肩書きに関係なく、リーダーの目指す方向に周囲が共感し応援してくれる状態のことである。そこには利他的・愛他的な姿勢や、高い志やビジョンが必要であるが、それらを周囲に伝播させていくには、戦略的な「報・連・相」も欠かせないのだ。こうして、ひとりではできない大きな仕事ができるようになっていくのである。これは、周りを巻き込む力を持つことで、不得意な分野まで何でもかんでも勉強しなくとも、それは得意な人に委ねることで事足りるようになっていく未来にも通ずる。

 効用の2つ目は、上司や周りから承認され、働きがいを感じられるようになること。優秀な人たちは懸命に勉強し努力を重ねてきたものの、それらが周りから受け入れられないと知ると、落胆とともに孤立感も感じるはずである。先進的な自分の考えが理解できない周りが前近代的なのだと高をくくっていられるうちはいいが、その状態が常態化すると、職場での居場所を失い、孤独にさいなまれる。それでも意固地になり自分の殻に閉じこもる一方になると心身の不調リスクすらある。

 ある企業では、ひとつの部署から極端にメンタル不調者が続出するという奇異な現象が起こったとか。経営者から指示を受けた人事が調査したところ、その職場は個人の仕事に没頭できるようにと、一人ひとりの間をパーテーションで仕切り、業務上必要最低限のコミュニケーションはメールでしか行わない状態だったとか。

 偉大な心理学者エーリッヒ・フロムは「人間のもっとも強い欲求とは、孤立を克服し、孤独の牢獄から抜け出したいという欲求である。自分以外の人間と融合したいというこの欲望は、人間のもっとも強い欲望である」という言葉を遺している。人は一人では生きられないのだ。

 「報・連・相」を軽視することなく、積極的に上司や周囲に自分の考えや自分自身を伝えることは、理解者を増やし、承認されるという人間の根源的欲求を満たすことになるのである。これは、社会で生きていくうえでの平衡感覚を維持することともいえる。

 こうして考察してくると、たかが「報・連・相」、されど「報・連・相」どころの話ではない。勉強熱心な次世代リーダーの皆さんには、自身のキャリアビジョンの実現のためにも、自身の心身のためにも今一度「報・連・相」の重要度を見直してもらいたい。

著者プロフィール:前川孝雄

(株)FeelWorks代表取締役・青山学院大学兼任講師

1966年兵庫県明石市生まれ。大阪府立大学、早稲田大学ビジネススクール卒業。(株)リクルートを経て、2008年(株)FeelWorks設立。「絆」と「希望」を育むユニークな人材育成手法で話題を集める。「キャリアコンパス」「プロフェッショナルマインド」など、温かい絆を育み組織の体質を変えていく独自の「コミュニケーション・サイクル理論」に基づくプログラムを次々と開発。人間味溢れる講師も育て、人気の「上司力研修」シリーズは延べ100社以上で導入されている。昨今は「人が育つ現場づくり」を重視し、組織風土を改革する「オーガナレッジメディア」も提供する。親しみやすい人柄にファンも多く、自らも年間約100本の講演等、執筆・コメンテーターなど、多様な部下を育て活かす「上司力」提唱の第一人者として熱く発信し続けている。現場視点でのダイバーシティマネジメント推進、リーダーシップ開発、キャリア論には定評がある。『勉強会に1万円払うなら、上司と3回飲みなさい』『働く人のルール』『はじめての上司道』『上司力100本ノック』『女性社員の部下の活かし方』『年上の部下とうまくつきあう9つのルール』『若手社員が化ける会議のしかけ』『頭痛のタネは新入社員』など著書多数。

2014年春に、オリジナルドラマをケース素材とした、OJTの強化・若手育成のための「ドラマで学ぶ『働く人のルール講座』」をリリース予定。


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